『ブルーフィルムの女』

6)『ブルーフィルムの女』 (VIDEO) ☆☆☆

1969年 日本 朝倉プロダクション カラー スコープ 80分
監督/向井寛   脚本/宗豊   出演/橋本実紀 小柳リカ 大杉久美 藤井貢 曽根秀介

 
(終盤まで触れています)

 食わず嫌い監督・向井寛を克服すべくピンク映画史の中では有名な『ブルーフィルムの女』から観るが、確かに面白い。
 タイトルバックがモロに『007は二度死ぬ』をパクっていて、笑いつつもピンク映画で小洒落たタイトルバックは珍しいので感心しながら観ていた。
 
 物語は、大阪で有名な株師が株に失敗し、二千万円の借金返済に困窮するところから始まる。思い余って首を吊ろうとしているのを妻子に止められるも、返済の手立ては無く、金貸しの藤井貢には返済期日は延ばせないと無下に断られる。しかし、藤井は妻とやらせてくれたら半年待つと言い出し、妻もしぶしぶ了承する。
 関係を終えた藤井は、更に自分の息子は気違いだから相手してくれる女が居ないので相手をしてやってくれと頼んでくる。妻は断るも、相手をしてくれれば半年は無利子で待ってやるという言葉に了承してしまう。
 土蔵に閉じ込められた藤井の息子のもとへ連れて行かれた妻は、土蔵の上から蛇を持つ気違い息子の姿を見た途端気絶する。気が付くと、蛇や鼠を持った息子がそれを妻の体内に入れながら上に乗っていて、絶叫する。
 身も心もボロボロになった妻がよろめくように家路に着く途中、車に跳ねられてしまう。
 警察からの電話で母の死を知った娘は、腑抜けのようになった父を責める。すると、父も痙攣を伴いながら倒れる。
 半身が麻痺した父を手助けしながら、娘は、金を貯めて金貸しの男を破滅させることを誓う。
 娘はゴーゴークラブなどで働きながらも体は頑なに許さず、父の看病にあたる。しかし、父も薬を飲み自殺を図る。
 一人になった娘は、住み込みでホステスの部屋へ住みながら金を貯めることに勤しむ。
 金貸しの男は、娘に返済の催促をするも、その後、気違いの息子に犯された末に首を絞められ絶命する。
 娘は、若い男から三十万で秘密クラブで踊らないかと誘われ、引き受ける。その後、若い男と共謀し、秘密クラブに来ていた客に売春を持ちかけ、4人の男と寝る。その様子を撮影しておき、4人を集めて恐喝し、金をせしめる。しかし、そのフィルムをヤクザに売り渡した為に男はトラブルを杞憂する。
 ある日、若い男と娘が埋立地の人気のない車中で抱き合っているところへ、一台の車が停まり、男が降りてくる。それを見るや、若い男は娘の首を絞め始める。娘は手を伸ばしながら絶命する。

 

 戦前の松竹の若旦那シリーズ(藤本真澄が戦後このシリーズをパクったのが若大将シリーズと言われている)で人気を博したものの、戦後は極端な没落でピンク映画にも出演するようになっていたと伝えられる藤井貢だが、ピンク映画に出演しているのを観るのは初めてだったが、作品で観る限り、気も抜かずに好演していた。把握できるピンク映画出演歴を見れば、全て向井寛の作品のようなので、信頼があったのだろうか。
 森卓也が、渥美清と試写で一緒になった際、外に出てきたら前をアクセクと歩く老人を見かけて、どこかで見たようなと思っていると、後ろから渥美にそっと「藤井貢さんですよ」と教えられたというエピソードをどこかで読んだが、戦前の松竹の人気スターと、その当時の松竹を背負っていた渥美との対比が痛々しい。森は、藤井がピンク映画にも出演していることまでは渥美は知らなかったようだがと書いていたが、情報通の渥美のことだから知っていたのではないかと思う。又、渥美自身、いつか自身も藤井のようになるのではないかという思いがあったのではないか。
 
 初めて見た向井寛の作品だが、撮影、演出含めて実直そのもので、カラミとドラマの配分も申し分なく、作品としても良く出来ていた。
 開巻の大阪株式市場を極端な煽りで捉えたショットや、数表示を接写したりとゴダールっぽくしたりしてる箇所もあったり、ゴーゴークラブの描写が石井輝男の『異常性愛記録 ハレンチ』での同様シーンほどトンガッてはいないにしても、寄りで見せるショットに一つ、二つばかり観るべきものがあった。
 この作品は、前半と後半でクッキリ別れていて、前半は株師の没落とその妻が気違いにやられるという内容で、演出の丁寧さや、気違いの描写が素晴らしい。
 殊に土蔵に幽閉された気違いの描き方は『犬神の悪霊』と比較しても良いくらいで、坊主頭で赤い着物を纏った男が現われるショットなど怖い。
 後半は、橋本実紀が主となるが、あらすじを読んでも分かるが、詰め込み過ぎて描き足りない箇所が見受けられて、終盤に行くに従って、とりとめないものになっているのが残念だった。殊に、肝心の敵である藤井貢の描き方が駄目で、金を貯め借金を返した上で復讐するのを誓っていたのに、気違い息子に殺されてどうするんだと。
 売春して4人の男と寝るというのを見せるのに、部屋に迎えて、レコードをかけて踊り、ベッドへという一連の流れを4カットほどで見せるのだが、これを4人分すべて均等に同じカット割りで再現するのは、かなり狙ってやっていて、某芸術映画と同じ様な反復で見せるということなのだろうが、安っぽくて退屈させられた。
 ブルーフィルムで恐喝するのは良いとして、ここからラストシーンに殺されるまでが性急で、察しはつくにしても、描写が不足している。ロングで見せた車から降りてくる男が引き金になって車中の若い男は橋本の首を絞めたのだから、ラストシーンは車の遠景なのは良いにしても、そこに近付いていく男の後姿を入れ込んで欲しかった。ただし、橋本の伸ばした手首が車の窓から見えるのはとても良かったし、そこに株式ニュースがカーラジオから流れるのも好ましかったが。
 株師のハナシを持ってきているのがとても良かっただけに、橋本が体を売って稼いだ金で株でのし上がる描写も欲しかった。