河瀬直美『殯の森』第60回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞


 パルムドールに次ぐグランプリを受賞とのこと。
 正に10年前の『萌の朱雀』が、より大きな形で再現された感があり、河瀬直美の強運への驚きと、フィルモグラフィーを見れば分かるが、毎年作品を作り続けていることがこういった形に結実していると思う。
 受賞で喜ばしいのは、作品にとっては勿論だが、『萌の朱雀』は―、東京での興行はどうだったか知らないが、大阪ではテアトル梅田で上映されたが、それはもうカメラドール効果で大変な混み具合だったものの、続く『火垂』は、同じくテアトル梅田で上映されたがガラガラで、前作『沙羅双樹』からは、シブヤ・シネマ・ソサエティ(現在のシネマ・アンジェリカ)で観たが、こちらも夫々自分が観た回はガラガラだったので、興行的な位置としての河瀬直美のことを考えると、これで一気に挽回されるのではないかと思う。
 何せ、劇映画は『沙羅双樹』以外、『萌の朱雀』すらもDVD化されていない河瀬直美だけに、こういった流れが旧作にも及べば良いと思う。
 先日既に発表されたが、次回作は長谷川京子主演で狗飼恭子脚本の『世界中がわたしをすきだったらいいのに(仮題)』という作品になるようで、河瀬直美が世界中がわたしをすきだったらいいのにって言ってるよ、という突っ込みはとりあえずしておくにしても、『沙羅双樹』では確か、共同脚本を当初立てていた筈で、河瀬が柱を書いて、共同執筆者がト書きを書くという形で脚本を書いていたと、シネヌーヴォでオールナイトがあった時に質問したので合っていると思うが―、結果的には完成した作品を観れば分かるが河瀬の単独脚本クレジットになっていたので、次回作で初めて他人の脚本を撮るという形になるので、それがどういった作品になるか期待したい。
 尚、『殯の森』は、6/23から、シネマ・アンジェリカで公開されるが、明日、BSハイビジョンで放送されるので、観れる方はどーぞ。

ハイビジョン特集 映画「殯の森
BShi 5月29日(火) 後8:00〜9:50

 
 シネマ・アンジェリカでは、公開前に特集上映が組まれるが、初公開となる『垂乳女』が遂に観れるので嬉しいが、『きゃからば』含めて、未見作もあるのでこれを機に、全作上映企画が東京でもあればと思う。
 劇映画に関しては、自分は世評の高い『萌の朱雀』と『沙羅双樹』を良いとは思わない。公開時に一度観たきりなのでアレだが、むしろ評価が全くされていない『火垂』こそが河瀬の劇映画の中では最も好きだ。公開時に2回、ビデオでも2回観たが、河瀬版ロマンポルノと言いたい作品で、未見の方はこの機会に是非。
 しかし、東京方面の方って、『萌の朱雀』好きな人多いですな。映画学校か日芸か忘れたが、同い歳のヒトがロケ地まで行きましてねとか言っていたのを聞いたこともある。あんなもん、大阪芸大の裏の畑でも撮れるがな、と言っていたコッチは、ちゃんと作品を観ていたのかどうか。何にしても、『殯の森』を観る前に旧作は観返そうと思っていたので、『萌の朱雀』も10年振りに再見する予定。
 そういえば10年前、蓮實重彦が『映画芸術』誌上で河瀬を評して、

河瀬直美という人は、自分以上かどうかはわからないけれども、とにかく図々しく下品で、平気にいろんなことをやってる。これは、大島渚以来のタマだと思います。図々しさとか、自分を押し付けるとか、つまり、映画以外の場でも自分を売ることのできる人だと。

 随分酷いことを言っているように聞こえるが(実際言っているのだが)、蓮實は『萌の朱雀』も『沙羅双樹』も評価していたので、これぐらいやらなければ、監督として世界に打って出れませんよ、という意味合いも含んでいるのだろうが、<大島渚以来のタマ>というのは、10年を経てみると的確だったことが分かる。
 未だ観ていないから分からないが、『殯の森』は、大島が『愛と希望の街』から10年を経て『少年』を撮ったのと同様に、『萌の朱雀』から10年を経た原点回帰ではないのか。それに河瀬が大島的なのは、本人の言動への反発などが常に巻き起こることからも伺え、この10年を見ているだけでも、自分が関西在住だったせいもあるのだろうが、嘗て近いところに居た人からそうでもない人まで、色んな人が、色んな感情を織り交ぜつつ、河瀬を罵倒したり、賞賛したりするのを耳にした。そういった中で、河瀬は途切れることなく毎年作品を作り続けていた。
 今回の受賞によって、初めて河瀬直美の作品を観るという人や、『萌の朱雀』以来観てなかったという人、手のひらを返すように河瀬絶賛に転ぶ人など、様々な人が居るだろうが、劇場が賑わえばそれで良い。

シネマ・アンジェリカ


河瀬直美監督特集
6/16〜22「垂乳女」12:00/21:00,「火垂」15:30,「萌の朱雀沙羅双樹」13:15/18:50
6/16 「萌の朱雀」13:15〜/「沙羅双樹」18:50〜
 6/17 「沙羅双樹」13:15〜/「萌の朱雀」18:50〜
 6/18 「萌の朱雀」13:15〜/「沙羅双樹」18:50〜
 6/19 「沙羅双樹」13:15〜/「萌の朱雀」18:50〜
 6/20 「萌の朱雀」13:15〜/「沙羅双樹」18:50〜
 6/21 「沙羅双樹」13:15〜/「萌の朱雀」18:50〜
 6/22 「萌の朱雀」13:15〜/「沙羅双樹」18:50〜


 「垂乳女」12:00 / 21:00、「火垂」15:30は連日同時刻開映。 


殯の森
6/23(土)〜 11:00 / 13:10 / 15:20 / 17:30 / 19:40

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