『女帝 エンペラー』『インビジブル・ウェーブ』

molmot2007-06-27

173)『女帝 エンペラー』  (シネマート新宿) ☆☆

2006年 中国/香港  Media Asia Films  カラー スコープ 131分
監督/フォン・シャオガン     脚本/フォン・シャオガン     出演/チャン・ツィイー ダニエル・ウー グォ・ヨウ ジョウ・シュン ホァン・シャオミン

 チャン・ツィイー目当てに観に行ったが、正しく大味な失敗作だった。
 端的に言ってしまえば、ワイヤーとハイスピード撮影濫用の弊害に尽きる。
 『ハムレット』の翻案をやるというのは観るまで知らなかったが、『蜘蛛巣城』『乱』辺りを念頭においたのかも知れないが、『乱』+『英雄 HERO』『LOVERS』+『ラストエンペラー』というところで、エキゾチズム大作が陥りがちな問題を全て犯した上で、本来ここぞという時に慎重に使用してこそ初めて効果が出る筈のワイヤーをやたらと不要な箇所でも使いまくっているだけでも観ていて辛いのに、ハイスピード撮影も全体の8割以上のカットに使用されているのではないかと思えるくらいの多用ぶりで、全く閉口した。
 チャン・イーモウの中ではそう良いとも思っていなかった『英雄 HERO』や『LOVERS』の方が遥かに抑制した使い方をしていたと思えた。

174)『インビジブル・ウェーブ』[INVISIBLE WAVES]  (シネマート新宿) ☆☆☆

2006年 タイ/オランダ/香港/韓国  INVISIBLE WAVES B.V.  カラー ビスタ 115分
監督/ペンエーグ・ラッタナルアーン     脚本/プラープダー・ユン     出演/浅野忠信 カン・ヘジョン エリック・ツァン 光石研 マリア・コルデーロ

 厳密な続編ということではないが、『地球で最後のふたり』の続編的バリエーションの作品である。
 『地球で最後のふたり』は、まあ、浅野忠信が出ているからという理由だけで観に行って、大して面白くもなかったのだが、それの続編的内容と聞いても期待するものはなかったが、これまた浅野忠信が出ていることだしと観に行く。
 浅野忠信の熱心なファンというわけではないが、90年代半ばの高校ぐらいの頃に観ていた幾つかの印象に残った映画に浅野君が出ていたせいなのか、何故か以降義務的なまでに浅野君の出ている作品は観に行っている。ちょっと映画好きなOLみたいだが、まあ、お陰でスルーするような映画を観る機会が増えるので良いかと思って10年が過ぎている。
 
 「予感」させる映画だった。
 開巻の机とソファを捉えたショットを観て、3年前に劇場で観たきりの『地球で最後のふたり』の記憶が蘇ってきた。あの作品で最も優れていたのは、松重豊演じる浅野の兄が、一端フレームアウトしたかと思いきや、ポンとソファに飛び乗るのをローアングルで捉えたショットで、本作の開巻が同じくソファと机をローアングルで捉えていたことから、やはりココかと思いながら観始めた。
 作品としては、前作よりは面白い。殊に、中盤のオンボロ船での船旅が良い。幽霊譚として観る分には悪くない。常に何かが起こる予感をさせてくれるので心地よかった。結局大したことが起こらなかったとしても、それを単なる思わせぶりと思わせない空間を発生させることが出来ていたのは魅力的ではあった。
 ちなみに、船室でのハチャメチャぶりはドリフ級で、茫洋とした浅野君を眺めながら、志村けんならもっと巧くリアクションするのになと、水道の蛇口を捻ればシャワーから水が飛び出しズブ濡れになり、ベットは固定できずに起き上がってしまい、ドライヤーを点けた途端ヒューズが飛んで停電するといったスラップスティックな光景を観ながら思った。
 結局、船の上にだけ、何かを予感させる息詰まる瞬間が確かにあったのだが、地上に降り立つとそれは消え、前作の終盤の大阪パート同様、浅野と光石研のやり取りになると、それはやはり青山真治がやった方が当然巧くやれると思いながら観るしかなかった。
 ただ、日本映画における、カラオケをどう撮るかという問題について、この作品は少し面白い視点を示している。日本映画では、1コーラスフルで見せる作品も多いが、往々にしてフルサイズか、バストぐらいで見せきる。本作では、プールサイドで光石研が唄うという、日本映画では無いシチュエーションというせいもあるのだが、俯瞰の後ろ姿のみで見せている。唄う口元など一切見せない。これは、『3-4X10月』の360度パン、『ラブ&ポップ』のグラスの底からの接写といったカラオケを撮る方法への、応用はできないが刺激的な示唆になったのではないかと思う。
 一時期の派手さが消えたクリストファー・ドイルの静謐な撮影の美しさなど、観るべき箇所はあるが、それ以上のものはなかった。