『アナタハン』『双子でDON!』

特集・逝ける映画人を偲んで 2004-2006
212)『アナタハン』[THE SAGA OF ANATAHAN] (東京国立近代美術館フィルムセンター) ☆☆☆★

1953年 日本 アメリカ 大和プロ モノクロ スタンダード 92分
監督/ジョセフ・フォン・スタンバーグ    脚本/ジョセフ・フォン・スタンバーグ 浅野辰雄    出演/根岸明美 菅沼正 沢村紀三郎 中山昭二 藤川準

『セキ☆ララ』DVD発売&『童貞。をプロデュース』劇場公開記念 松江哲明のセキララで嘘つきなドキュメント選集

213)『双子でDON!』 (UPLINKFACTORY) ☆☆☆★

2005年 日本 ハマジム カラー スタンダード 約60分(再編集版)
演出・構成/松江哲明    出演/山野姉妹、花岡じった

 ハマジム有料サイトでのみ配信されている『双子でDON!』を、はじめて観ることができたが、プログラムピクチャー的面白さに満ちた作品で楽しめた。
 双子の女優がいるので、SEXの最中に入れ替わって果たして男優は気付くか?という1シチューエーション、1アイディアの作品だが、こういった作品で気になるのは、根幹のネタが画で再現されているだけに終わっていないかということで、こうなるであろうという予想通りにコトが運んだということを画で見せられても、それ以上の面白さというのはないことも多い。その点、この作品では花岡じったという得難き男優が登場するので、正にオカズの部分が豊富で、作品の幅を大きく広げている。
 AVを少しでも見ていれば、確実に花岡じったを目にしたことはある筈で、実際自分も『セキ☆ララ』を観るまでは、アクの強いAV男優としか思っていなかった。しかし、あの作品を観てしまうと、もうただの男優としては観れない。愛すべき存在になってしまい、裏DVDを見ていて、花岡じったが登場すると何故か物悲しくなって、何で丸出しのAV男優を見て、知り合いでもないのに悲しくならなければいけないのかと思うのだが、それは『セキ☆ララ』を観れば納得のできることだ。
 本作では、神社の階段をスヌーピーのトレーナーを着て花岡じったが昇ってくるだけで笑えてくるのだが、オレンジのスヌーピーのトレーナーを着ている分際で会って5分でソフトタッチを始める花岡じったは、本当に愛すべき存在で、食事中に一回目の入れ替わりが行われても気付く気配もない。ちなみに、食事中のうどんを食べている様子を間を抜きながら3カットで見せて字幕入れて、また食べている様子をもう1カット入れ込むところなど、松江哲明の編集技がこういった何気ないところで光っているのも見逃せない。
 ホテルに移動してのカラミの撮影では、セッティング中から既に本気モードな花岡じったに松江らが驚くという、AV男優が天職であることを確認させてくれるシーンもあるが、カラミに入っての職人ぶりは流石で、近藤龍人の撮影の見事さもあって、今回の劇場公開用のカット版というのに十分エロい。そして、伝説のあの汗を女優の足の裏を使って拭くという凄い行為も何の気なしにやってのける。
 二回目の入れ替わりもバレることなく進み、フィニッシュの後のティッシュをもう一人が持って登場してネタばらしとなる。この時、登場した瞬間の花岡じったの表情がとらえられてはおらず、双子からパンしてじったの顔になるので、正に登場した瞬間の表情が見たかったという気もするのだが、それはバラエティ的ノリになりすぎるか。『童貞。をプロデュース2 ビューティフルドリーマー』を観た時にも思ったが、バラエティ的ノリに近い場合、どこで差別化を図るかという箇所が出てくると思うが、本作の場合は、殊更にバラシの箇所を作品の根幹に持ってきて過剰に強調するわけではなく、作品の流れの中で軽く観れるようになっているので、画面の中の人物も観客も、花岡じったも含めて、みんな軽く笑えるのが良い。これは、松江哲明の嗜好、花岡じったの性格に負う物が大きいのだろうが、罪のない軽いダマシで明るく笑える作品に仕上がっている。
 花岡じったが、しみじみと双子を眺める姿など、実に素晴らしいのだが、何よりプロだと感嘆させられたのは、最後に双子と3Pした際に顔射をきめるにあたって、ちゃんと並んでいる二人の顔両方にザーメンを飛ばすのである。で、見事に顔を斜めに横切る形で附着しており、感心させられた。
 終盤の双子と花岡じったが握手する松江AV作品では御馴染みな様子や、新宿駅前で別れ際に双子の一人が何故か感極まって泣き、『セキ☆ララ』同様「家族みたいでした」と言う。僅か数時間の撮影で、それも花岡じったを入れ替わりで騙すだけのAVなのに何故?と普通なら思うのだが、単に和気藹々としてるだけの内輪受けのような作品ならば白けるのだが、商品として完成度を保ちながら、現場の雰囲気の良さが作品に結実し、観ている側も幸福な気分にさせられる小品の佳作『双子でDON!』を観ていると、彼女達の気分もわかるような気がする。


トーク山下敦弘×松江哲明