『追悼のざわめき・デジタルリマスター版』

269)『追悼のざわめき・デジタルリマスター版』(シアター・イメージフォーラム) ☆☆☆★

1988-2007年 日本 モノクロ スタンダード  150分
監督/松井良彦     脚本/松井良彦     出演/佐野和宏 隅井士門 村田友紀子 大須賀勇 日野利彦

初回限定生産 追悼のざわめき デジタルリマスター版 スペシャル・エディション(3枚組) [DVD]

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 9年ぶりの再見となった。9年前に観たのはシネ・ヌーヴォ梅田。強烈な作品ではあったが、初見時は、これ見よがし過ぎるとも思った。ホラ、こんなことすると過激でしょ、ホラ、こんな危ないことやってますよ、という風に。しかし、今回再見すると、こんなにも透明感溢れる崇高な寓話であったのかと思った。嘗て感じた過激さやグロテスクさは鳴りを潜め、静謐な美しさに包まれた映像詩だと思った。デジタル・リマスター版による16mmの荒涼さが失われたことも関係があるのだろうか、何より、音楽の差し替えが印象を大きく変化させているとも思った。最も象徴的なのは、あの忘れ難い終盤の小人女性の小学校乱入シーンで、オリジナルでは、桜田淳子の『わたしの青い鳥』が大音響でかかっていた。それだけにそのチグハグさに呆気に取られたり、おかしいやらで、永遠に忘れられないシーンとなったのだが、今回差し替えられた曲も美しくて良いのだが、随分印象が変わった。本作は年末にDVD発売が決定しているが、今後劇場で上映される際のスタンダードが、デジタル・リマスターになってしまっては困る。劇場で観る際の特権として、あの16mmのオリジナル版が上映されることを願う。しかし、2007年版の『追悼のざわめき』として、このデジタルリマスター版にも愛着がある。オリジナル版と並べて観ると、どれぐらい印象が変わるだろうか。


 『追悼のざわめき・デジタルリマスター版』の上映、DVD化という流れは、松井良彦の新作『どこに行くの?』が来年早春ユーロスペースでレイトショー上映されることで結実する。新作への期待は、『追悼のざわめき』との新たな出会い直しにより、より高まった。尚、偶然ではあるのだろうが、松井良彦の後継者と目している、長らく上映が決まらなかった柴田剛の『おそいひと』が、12月1日より、ポレポレ東中野にてレイトショー公開される。2004年の東京フィルメックスで観て以来だが、ここまで上映が遅れたのは作品にとっては不幸だとは思いつつも、結果的には絶妙な時期に公開されるので、話題になるのではないだろうか。簡単に絶賛したり罵倒したりするだけの作品ではない。正に賛否両論が渦巻く問題作なので、自身の目で判断してもらいたい。自分は初見時は相当罵倒した方だが、その後、再見したいという思いに囚われ続けているので、公開が決まったことは喜ばしい。
 

尚、長年観たかった松井良彦の『豚鶏心中』が今年上映されたと言うのに、何故か見逃すという失態を演じたことを激しく後悔していたが、幸い救済措置的に再び上映が決まったようで安心している。

映画「錆びた缶空」、「豚鶏心中」(共にD.V.にて上映)


 期間 : 11月24日(土)〜30日(金)
 時間 : 21:00〜(連日)

《上映スケジュール》
映画「豚鶏心中」 / 11月24、26、28、30日
映画「錆びた缶空」 / 11月25、27、29日

会場 : UPLINK X                    
http://www.aa.alpha-net.ne.jp/cineymbw/page004.html