『ショートバス』

281)『ショートバス』〔SHORTBUS〕 (シネマライズ) ☆☆☆★★

2006年 アメリカ カラー ビスタ  101分
監督/ジョン・キャメロン・ミッチェル    脚本/ジョン・キャメロン・ミッチェル
    出演/ポール・ドーソン スックイン・リー リンジー・ビーミッシュ PJ・デボーイ ラファエル・バーカー 

 冒頭に登場する凝ったミニチュアで作られたNYの街並みが直ぐに寓話であることを示すが、同時に最近の『恋愛睡眠のすすめ』などでも見られたミニチュアで見せる手法が、如何にもな使い方をされて鼻についたら嫌だと思ったが杞憂に終わり、寓話への入り口として効果的に使われていた。
 又、そのミニチュアの街並みから、次々と主要人物の部屋へ飛び込こんで行くが、そこで観客の目に触れるのがSMの女王だったり、セルフフェラを試みる様子をビデオ撮影する男性だったり、縦横無尽な激しいセックスを行う男女だったりと、ハードな描写が続くが、ミニチュアが生々しさを消し、寓話への導入部として巧く機能している。ハードコアな描写と寓話性の並立ができていることに感心し、作品の世界へ直ぐに入り込むことができた。
 最も魅力的なのが、ソフィアを演じたリー・スックインで、オーガズムに達したことがない女性を演じているが、眉間の皺や、ちょっとした表情が良く、単純な欲求不満型の演技になっていないのが良い。
 “ショートバス”というサロンは、所謂スワッピングなども行われる性の開放空間であるが、社会からハミ出した者たちのパラダイスで、ここでだけは永遠とお祭り騒ぎが続く―という見せ方にはなっていない。あくまで個々の抱える問題があり、その憩いの場としてショートバスが存在する。夫々が或る箇所では交わりつつも、一堂に会してハシャグ、といった展開になりそうでならない抑制が好ましい。だから、ソフィアとセヴァリンの浴室でのやりとりの濃密な空間など、この作品では多様な人物が入り組みながらも、一対一の描写が際立っている。
 前半は、これは凄い傑作なのではないかと身を乗り出したが、中盤でショートバスに入ってからはやや弛みを感じ、終盤で持ち直したという印象だが、多様な性を鮮やかに描き出した佳作だった。