『サウスバウンド』

303)『サウスバウンド』 (シネリーブル池袋) ☆☆☆★

2007年 日本 角川映画 カラー   分
監督/森田芳光    脚本/森田芳光    出演/豊川悦司 天海祐希 北川景子 田辺修斗 松山ケンイチ

 何故か随分と評判が悪いようで、そのせいもあるのか金券ショップで近年稀に見る暴落を見せており、自分が買った時ですら既に250円だったのに、その後100円を割ったとか聞くと流石に驚く。
 森田芳光監督作としては来月の『椿三十郎』との連続公開になる上に製作母体が現・角川映画と旧角川映画と言うべきか、角川歴彦角川春樹がそれぞれ製作総指揮に当たるという並の監督ではカドが立つのを恐れるようなことが平然と行われているのも凄い。で、『サウスバウンド』は弟の方、現・角川映画の作品である。
 一見して、何がそんなに悪いのかと思った。傑作ではないし、不味い箇所もあるとは言え、至極真っ当な映画に仕上がっており、自分は全く退屈しなかった。
 森田芳光のヘタウマな見せ方は、時として本当に下手に見えてしまったり、実際失敗することもあり、その辺りも含めて市川崑に模せられることがあるのだと思う。『模倣犯』などは、市川崑で言えば『火の鳥』クラスだ。
 近年で言えば『39』『黒い家』『間宮兄弟』なども実にキワキワで、世評の高い『39』は自分は駄目で、『黒い家』が秀作だと思った。『間宮兄弟』などは更にキワを狙い、危うい箇所もありつつ佳作に仕立ててしまう力量は、やはり凄い。
 本作もキワが更に際立つ感のある作りで、狙い過ぎでミエミエになったり、敢えて外しているのに本当に外れているような描写もあるが、豊川悦司天海祐希という実はコメディが相応しい役者が中心にいるので大きく映画が傾くことはない。
 ただし、致命的に不味いのは子供の描写が敢えてやっているのかもしれないが、単純に古めかしく思えてしまい、いくら80年代の花形監督とは言え、根岸吉太郎などと違って、

森田芳光は現在の日本映画も割合ちゃんと観ているという印象があり、『打ち上げ花火、下から見るか、横から見るか?』などもちゃんと評価していたような記憶があったので、子役の演技のつけ方が何故こんなに古めかしくなるのかが疑問だった。
 又、敢えて東京と沖縄を同じトーンで撮るようにしたとのことだが、やはり沖縄編から映画が跳ね上がって欲しい。随分と暗いトーンで撮影していることもあって、それが成功しているとはとても思えなかった。又、土地の役者を使っているのも成功しているとは思えず、相変わらずどこにでも入れてしまう達者な松山ケンイチ以外は沖縄勢のキャスティングには首を傾げた。聡明な森田芳光だから、敢えてやっているに違いないと思いつつも、それが巧く行っていない場合に当たってしまうと辛い。
 とは言え、馬鹿みたいなハナシだが、自分は成功しようが不発に終わろうが、爆弾が出てきたり、爆発する映画は基本的に支持するので(昨日観た『ヒミコさん』も終盤の爆発で一気に評価が上がった)、本作に登場する爆発も喜んで観ていた。だから、豊川悦司天海祐希が嘗てアラブに飛び立った赤軍兵士の如き家族を残して何処かへ去っていこうとも、嬉々として観ていたので、欠点も理解しつつ嫌いな作品とは言えない。