『愛のむきだし』(☆☆☆☆★)/『限りなき前進』(☆☆☆★★★)/『252−生存者ありー』(☆☆★★)

 映画美学校第一試写室で、園子温愛のむきだし』(☆☆☆☆★)を観る。

 受付に、ナヲイさんが居た。サンプル盤DVDで観たのを合わせると東京フィルメックスと今回で三度観ていることになる。それでも飽きない。計12時間をこの作品を観るために当てているわけだが、時間の無駄とも思わない。まだまだ繰り返し観たいと思う。
 最終試写ということもあり、盛況の入り。前の席に山根貞男先生。どう思われたのだろうか。
 終了後、美学校からフィルムセンターに横移動して、来年の「日本映画史横断3 怪獣・SF映画特集」のフライヤーを取る。『第三次世界大戦 四十一時間の恐怖』をもう一度観たい。以前観た時はラピュタ阿佐ヶ谷だったのでフィルムセンターの大きなスクリーンで再見したいなあと。映画史から抜け落ちているが、佳作だと思った。

http://d.hatena.ne.jp/molmot/20060905/p1
第三次世界大戦 四十一時間の恐怖」 (ラピュタ阿佐ヶ谷) ☆☆☆★★
1960年 日本 第二東映 カラー スコープ 77分

監督/日高繁明     脚本/甲斐久尊     出演/梅宮辰夫 三田佳子 加藤嘉 故里やよい 藤島範文
 第二東映の1960年製作の作品なので、まあ東映が、しかも第二東映だから陳腐なものに違いないので漫然と眺めるだけになるだろうと思いつつ観始めたら、これが面白い。最近の日本列島があくまで沈没しかけるだけの映画などより遥かに面白い。
 映画会社のカラーというのを痛感するのはこういった作品を観た時だが、散々観て来た東宝とは全く違うテイストに驚いた。
 タイトルから想起するような派手な特撮や見せ場のある作品ではない。「大怪獣東京に現わる」よりは豪華な、ぐらいに考えておくと良い。
 開巻からの、学校での平和学習風景から男子学生三人と女子学生一人の組み合わせで話し合う様など、東映製作の教育映画もどきで、或いは未見ながらずっと観たい第二東映の「十五少年漂流記」みたいな(後で本当に少年達は漂流するのだが)系列の作品になるのかと思いきや、視点は広がり、市井の人々の生活を丹念に描いていく。
 梅宮辰夫の新聞記者と看護婦の三田佳子は、梅宮が結婚を何度も申し込んでいるものの看護婦の仕事を続けていきたい三田は返事をはぐらかし続けている。前述の学生の一人の家庭は、父の加藤嘉と姉の三人暮らしで、父は堅実に働いて貯蓄し、娘を嫁に出す日が迫っているのを楽しみにしている。女子学生の父は会社経営者で裕福な家庭である。また、酒場で流しをしている男は妻が病弱で困窮の日々送っている。
 といった割合定石的な人々の日常生活と、緊迫していく世界情勢とが描かれていくわけだが、あくまで市井の人々の家庭を通じた視点からのみで形成しているのが良い。つまりは政治家や研究者といった物語レベルを左右できる存在が本作には居ない。起こってしまったことは享受するしかない人々を描いているのが良かった。
 朝鮮戦争の再発的危機の勃発という生々しさから国連の戦争回避への模索といった流れを、本作は徹底してラジオから聞かせていく。1960年なのでどの家でもというわけではないにしても或る程度はテレビが、と思わなくもないが、「小林信彦60年代日記」読んでもわかるが、未だ1960年ならそうテレビの所有数は少ないか‥ゴルフ場、酒場、街頭で、ラジオから流れる声によって民衆は焦り、パニックを起こし、逃げていく。
 本作で凄いのは逃げ惑う人々の描写で、パーマネントセットを持っていた時代の強みもあるのだろうが、エキストラの異様な数と一方向に向かって進むのではなく、縦横無尽に逃げ惑っているのが良い。殊にカメラが交差点に横移動から入ってクレーンで上に上がり俯瞰でその光景を見せるショットなど実に良い。
 又、加藤嘉が女子学生家族の乗った車にひき逃げされて死亡に至るやるきれなさなどパニック時の暴徒化が描きこまれていて良かった。東宝ではなかなか主要人物が平田明彦にひき逃げされたりしない。

 以下ネタバレ含む。
 そしてソ連からの最後通告の後、東京に水爆が投下されるのだが、国会議事堂などがパーンと爆発したりするだけなので、陳腐なものだが、アングルは正面からでややあおり気味程度のサイズで、「インデペンデンス・デイ」がホワイトハウス爆破シーンで下からあおりすぎていたことを思うと、これぐらいが理想かなというサイズだった。これに円谷特撮が加われば東宝の一連の作品とは異なる特異な作品になったのではないかという気もするが、映画はそう都合よく進まない。
 死の灰が降り、皆死んでいって僅かに残った国(アルゼンチンが仕切ってる!)によって世界の再建を図ろうという呼びかけで映画は終わる。
 登場人物達は死を持って終わっていくなんとも救いようのない作品だが、それだけに妙な生々しさと東宝作品のような爽やかさに時折ケッと思う身としては、この作品はとても好きだ。

 池袋へ移動。古書店で『成人映画 NO.88=1973』購入。1050円。林静一若松プロで監督した『夜にほほよせ』の特集だったので。

 新文芸坐内田吐夢限りなき前進』(☆☆☆★★★)を観る。
 5年前にフィルムセンターで観て以来二度目の鑑賞。ほとんど覚えていたので、評価も変わらない。大半が残っている前半がやはり凄い。後半は完全版で観ないと、その真価は判断できない。しかし、狂気は不気味なほどに伝わる。
 Tジョイ大泉で水田伸生252−生存者ありー』(☆☆★★)を観る。
 『愛のむきだし』や『限りなき前進』と同じ映画であると言いたくない。252の信号を三度も使うだけでウンザリする。