『大市民』(☆☆☆★★)

『大市民』
☆☆☆★★ DVD
ディレクター/和田勉  作/山田信夫  出演/植木等 左幸子 吉野謙二郎 北村和夫 嵯峨善兵 吉田日出子
1966年 日本 モノクロ 59分

 5年前に「NHKアーカイヴス」で放送されているのを途中から眺めて、その暴走演出ぶりに瞠目させられた『大市民』がDVD化されたので、ようやく全編を観ることができた。
 団地に住む平凡な一家族のそれぞれの1日を描いたものだが、植木等左幸子というアクの強い二人の演技と、和田勉の自由奔放な演出が面白い。
 植木演じる父は海水浴に行く子供を駅まで車で送り届けた後、会社でバカ笑いしながら重役との会議を進めていくが、ライバル会社から引き抜かれそうになり逡巡する。子供は海水浴へ友達と出かけるかイジメっ子もついて来た為、自分の作った玩具のヨットが壊され、腹立ちまぎれに沖へと泳ぎ、溺れて意識を失う。左幸子の母は、御用聞きがひっきりなしに訪れる団地の喧騒にうんざりする中、トイレットペーパーをふとした勘違いから大量に買わされてしまい処分に困る。
 三者三様のトラブルと迷いを、和田勉は極端なアップや、不自然なモンタージュに過剰な音楽の上塗りで、画面を煽りに煽る。
 後世からすれば、60年代の団地での生活自体が既に物珍しいが、植木等のバカ笑いを観ているだけで幸福な気分になる。若松孝二の団地映画(『壁の中の秘事』『現代好色伝 テロルの季節』)や『彼女と彼』と比較してみたい。