『青春の殺人者』(☆☆☆☆)

 買ったままDVDでは観ていなかったので久々に再見するが、ビデオよりも5分長い版であることに驚く。劇場公開時は132分だったが、その後、海外の映画祭出品などを経て翌年の再公開時に115分へ短縮され、以降ビデオ、LD、フィルムセンターへの寄贈プリントもすべて115分版らしく、ようは自分がこれまで観ていたのは、公開時から17分もカットされた版だったわけだ。DVD化に当たっては完全版を探したがネガもポジも見つからず、かろうじて短縮作業の中間に位置するような120分版が見つかったので、該当カットのみを差し込んで現状の最長版でDVDがリリースされたことがライナーに記載されている。まるで『姿三四郎』だ。戦前の映画ではない。たかだか33年前のATG作品だ。それですらオリジナル版は紛失してしまっている。『駅 STATION』のラスト1巻が丸々カットされていることは有名だが、DVDに特典で収録しようとしたところフィルムが見つからなかったというエピソードもあるが、日本映画なんて所詮そんなものだ。
 久々に観ても強烈な印象を刻みこんだ作品だけに、今更何を言うでもなく素晴らしい。映画史に残る大傑作だと改めて思う。それだけに、いつも長谷川和彦の新作を観たいと思っていた。少なくとも自分が1歳の時に撮って以来、このカントクは新作を撮っていないのだから、リアルタイムで新作を観たいと思っていたが、最近はもう実現することはないのかとも思っている。90年代後半に『連合赤軍』や『ループ』が実現しかけていた頃がピークで、もう無理かなと正直思っている。だから、『青春の殺人者』と『太陽を盗んだ男』を見せてくれただけでも良いじゃないか、後は脚本作にも良い作品があるんだから、と強引に自分を納得させようとしている気がする。実現しなかった時のショックを抑えるために。
 それにしても、水谷豊の後にそっと立った白い下着姿の市原悦子が、シーツを水谷に覆いかぶせ、包丁で一心不乱に刺してまわるが、シーツの中の水谷の主観でシーツを割いて刃が飛び込んでくるショットや、水谷が市原をシーツで抑え込んで包んだら、中から包丁で布を割いて出てくるところの恐怖たるや、親殺しの映画とは言え、ジャンルを越境する突き抜けた表現にも深く感動する。この瞬間に市原悦子は世界に誇る殺人鬼へと化してしまうのだから。

青春の殺人者 デラックス版 [DVD]

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