祝・荒戸源次郎復活

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 以前から映画化は伝えられていたが具体的な監督やキャストが発表されていなかった『人間失格』だが、監督は何と荒戸源次郎である。荒戸源次郎と言えば、『RAMPO』奥山版の著名人を集めたパーティーシーンにも一瞬映りこんでいたあの人ですよ、と言えば顔が浮かぶだろうか。
 世間では主演の生田斗真の話題が中心だが、怪物・荒戸源次郎の復活こそ喜びたい。『赤目四十八瀧心中未遂』以降は監督作はなかったものの、プロデュース作品の『ゲルマニウムの夜』を上野の東京国立博物館内に建設された映画館・一角坐で上映したり、同館で自身の若き日の主演作にして大和屋竺の幻の傑作『愛欲の罠』をリバイバル上映するなど、相変わらず活発な動きを見せていたが、ある時期から姿が見えなくなった。一角坐も放置されたままになり、遂に昨年解体されたようだし、噂ではまた借金で逃げているとか何とか、都内の高級ホテルに潜伏しているとか、債権者を煙に巻いてたとか、どこまで本当なのか知らないが、一昔前の九州で沈められているという噂を彷彿とさせるような話を耳にしたのが最後だった。
 それだけに『人間失格』を、しかも角川映画の製作で、「角川映画が総力を挙げて取り組む」と角川歴彦が宣言する作品の監督として復活するとは思いもしなかった。やはりこのオッサン、怪人ですな。まあ、そうでなければ清順を復活させたり、阪本順治をデビューさせたりはできないだろう。
 そういえばつい最近、『タコ社長と社長秘書の宣伝日記。』で『美代子阿佐ヶ谷気分』の試写に内田春菊と荒戸源治郎という『ファザーファッカー』な二人が来たという記述があり、荒戸源治郎は着物に金髪だったという。ただでさえ、トークショーなんぞで間近で見ると、絶対気違いだろうなと思ったものだが、着物に金髪って『陽炎座』の楠田枝里子じゃあるまいし、と思うも、ともあれ復活を喜びたい。俄然『人間失格』が楽しみになった。
 一方で、太宰好きのあの監督は今回も腰が重いのかと思ってしまうのは岩井俊二のことである。13年ほど前にも宮沢賢治生誕100年で映画化が相次いだ時にも、ヘラルドは岩井俊二宮沢賢治モノを1本という企画があった。『LOVE LETTER』の直後である。しかし、岩井は自身で脚本も書き、企画が発酵するまで時間のかかる監督なので結局流れてしまった。その後、岩井と市川崑の共同監督プロジェクトで『本陣殺人事件』が検討される前に『人間失格』はどうかと岩井が提案したことがあった。以前から岩井は『人間失格』の映画化を希望しており、『ダ・ヴィンチ』の95年頃のインタビューでも時代設定もそのままに映画化したいと語っていた。それだけに、荒戸源次郎の復活を喜びつつも、岩井俊二版の『人間失格』も観たかったと思ってしまう。もっとも、市川準も『ヴィヨンの妻』を根岸吉太郎と競作になってでも映画化すると準備していただけに、岩井俊二にも期待したいところではあるのだが。