『あんにょん由美香』(☆☆☆☆)

molmot2009-05-19

(107)『あんにょん由美香
☆☆☆☆ 映画美学校第一試写室
監督/松江哲明  構成/松江哲明  出演/林由美香 ユ・ジンソン 入江浩治 キム・ウォンボギ カンパニー松尾 いまおかしんじ 平野勝之
2009年 日本 カラー 119分

 一人の映画作家の転換期に立ち会うことができることほど、観客にとって幸福なことはない。これはひょっとしてこの作家にとって大きな意味を持つ作品ではないか、などと観ながら予感したとしても、そう囃し立てた後で次回作が旧態然とした作品に戻ってしまうなどということは、あり得る話である。その点、松江哲明の場合は『あんにょん由美香』によって、『あんにょんキムチ』から始まった監督人生の第1期がこの作品で結実したと断言して良い。それというのも本作よりも先に次回作である『ライブテープ』を観る機会があったので安心して言えてしまうわけだが。『ライブテープ』で松江哲明は、これまでの自身の得意な手法を封じて全篇1シーン1カットで長編映画を作ってしまった。『セキ☆ララ』あたりまでは編集のテンポはゆっくりしていたが、『童貞。をプロデュース』に観られるような早いテンポで、同ポジで会話もどんどん切ってテンポアップしていく手法へと変遷を辿って行ったことは周知の通りだ。それをリセットするかのように『ライブテープ』では編集不可能な手法を敢えて取り、松江の空間演出技法によって時間を伸縮させて、まるで現場で編集を行いながら撮っているかのような鮮やかさで観る者を驚かせ、第2期のスタートに相応しいまるで処女作のような初々しさに満ちた作品を作り上げた。
 『あんにょん由美香』と『ライブテープ』という作品が2本公開されるという事実。これまでに松江哲明の作品を観たことがあるかどうか、あるいは林由美香の出演作品を観たことの有無など全く関係ない。ただ、一人でも多くの人に一人の映画作家の到達点と次の出発点が重なり合う瞬間を体感してもらいたいと思う。
 とても一度では本作の魅力を書ききれないので、これから公開まで数回に分けて『あんにょん由美香』の素晴らしさを中心に書いていきたいと思う。
あんにょん由美香』は7月上旬、ポレポレ東中野でレイトショー公開される。