2009年上半期BEST5 WORST5

■日本映画・BEST5
1『あんにょん由美香』(松江哲明
2『愛のむきだし』(園子温
3『ライブテープ』(松江哲明
4『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(庵野秀明
5『オカルト』(白石晃士

 毎年恒例の上半期BEST5&WORST5だが、日本映画のBESTは以降に、6『犀の角』(井土紀州)、7『あとのまつり』(瀬田なつき)、8『ダンプねえちゃんとホルモン大王』(藤原章)、9『こおろぎ』(青山真治)、10『A・Y・A・K・A』(大橋裕之)といった作品が控えている。
 1〜3は順序入れ替え可能で、愛と生と記憶にまつわる作品が並んだ。どれを1位にしても良いが、やはり『あんにょん由美香』に思い入れがある。平野勝之の『由美香』を観た後、『由美香』『由美香』と自分がうわ言のように呟いていた19歳の時から12年、同世代者・松江哲明によってようやくあの時に自分が感じた“少し歳の離れたお姉さん・林由美香”の像が映画になっただけに感慨深い。もちろんそれだけではなく、いつか叶うと思っていた松江哲明×林由美香のコンビ作が実現しなかった喪失感そのものを映画にすることで取り返し、映画でならできなかったことをできるという確信ぶりがこの作品の揺るぎない強靱ぶりとなっていることに感嘆したからだ。果たして現在、映画の力をここまで確信している映画監督がどれだけいるだろうか。『女優 林由美香』ではなく『あんにょん由美香』と題されていることからも分かるが、「林由美香」を描くなら他に相応しい監督が居る中で、松江哲明が描くからには自身の側に引き寄せるのは当然として、下手すれば林由美香を利用したなどと言われかねない際どい題材ながら、先人監督たちへの尊敬の念も率直に映し出し、やがて映画の渦に全てを巻き込んでいく松江哲明の巻き込み型ドキュメンタリストぶりの威力が発揮され、『あんにょんキムチ』から始まった第一期の松江哲明の集大成と断言して差し支えない傑作となった。
 第一期集大成などと軽はずみに言えてしまうのも、既に次回作『ライブテープ』が控えているからで、今年の元旦の吉祥寺の街で前野健太が歩きながら歌い行く様を1カットで捉えた、一見実験的手法が先行した作品に思いきや、そのカセが街の空間とそこに流れる時間を映画の中に流し込んでいく。近藤龍人の素晴らしい撮影によってあたかも街がセットとして組まれ、エキストラが周到に配置されているかのように錯覚してしまう。スクリーンを見つめる観客が体感する時間と映画内に流れる時間が一致し、共に街頭で前野健太の歌を聴いているかのような幸福感あふれる音楽映画だ。
 『愛のむきだし』はその描写の過剰さを過剰さで上塗りしていく過剰さが映画の加速度を進め、それに併走できない俳優は転がり落ちていきそうな疾走感に満ちており、『ライブテープ』と同じくスクリーンと客席の距離を無効にしてしまう。ピンキーヴァイオレンスへのオマージュも含めて、園子温の映画史的記憶をダイレクトに入れ込むことで描写の過剰さはより増しジャンルの越境を繰り返した末に映画そのものを越えようとし始め、傑作と言うに止まらないゼロ年代を代表する日本映画へと躍り出た。 
 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』は、『序』のあまりのオリジナル版の忠実すぎる再現映画ぶりに作品の完成度の高さを評価しつつも閉口した者としては、驚くほどの“破”に満ちており正に再構築を果たしている。庵野秀明エヴァ以降の惰性ぶりを目にすれば自作を汚すだけに終始するかと思いきや、『序』を経て、園子温の例と同じく庵野秀明の映像史的記憶がダイレクトに導入される(『帰ってきたウルトラマン』にとどまらず『太陽を盗んだ男』の音楽も流用)ほどの過剰さを敢えて行うことで映画自体の軋みは激しくなっていき、終盤で炸裂する展開を体感すれば分かるが、映画の枠をこえる瞬間を垣間見せてくれる。『愛のむきだし』同様、商業映画枠で自主映画的アプローチを行うことで到達した表現域に感動を覚えた。終盤の展開にはひたすら嗚咽していたが、これは70年代後半前後に生れたエヴァ世代にまん延しているものだからと呆れられようが、今年の日本映画の核となる作品だ。
 『オカルト』は一見、量産され尽くしているように思えるフェイクドキュメント形式のホラーをジャンルの越境と過剰さを加えていくことで全く新たな地平に立った作品で、若松孝二の往年のテロ映画と比較し得る傑作となった。
 オウムを題材にした日本映画学校の実習として作られた井土紀州の『犀の角』、ゴダールを今時堂々とやっても恥ずかしくないものに作れてしまう『あとのまつり』他、充実した作品を上半期は観ることが出来たが見逃した作品も含めて下半期も期待し続けたいが、特にメジャー作品にこれらのインディペンデント作品を蹴散らすものが出てきて欲しいと真剣に思う。

■日本映画・WORST5
1『ゼラチンシルバーLOVE』(操上和美)
2『さくらな人たち』(小田切譲)
3『バサラ人間』(山田広野)
4『ハルフウェイ』(北川悦吏子
5『ニセ札』(木村祐一

 他にも『罪とか罰とか』『少年メリケンサック』『GOEMON』『20世紀少年<第2章> 最後の希望』などを積極的にワーストに推したい。極力酷そうな映画は避けていたが、これだけ引っかかってしまった。個別に言いたいことは山ほどあるが、疲労困憊するので今度。

■外国映画・BEST5
1『チェンジリング』(クリント・イーストウッド
2『グラン・トリノ』(クリント・イーストウッド
3『ミルク』(ガス・ ヴァン・サント)
4『サスペリア・テルザ 最後の魔女』(ダリオ・アルジェント
5『スラムドッグ$ミリオネア』(ダニー・ボイル

 外国映画を観る本数が減ってしまったので見逃しが多いため、ごく常識的な作品を並べるだけになった。

■外国映画・WORST5
1『アルマズ・プロジェクト』(クリスチャン・ジョンストン)