映画

1) 大虐殺(ビデオタイトル「暴圧」) (NECO) ☆☆☆★★

 1960年 新東宝 モノクロ 新東宝スコープ 〈94分)
監督/小森白 出演/天知茂 北沢典子 細川俊夫 沼田曜一


今回の放映までこの作品の存在を知らなかった。
大杉栄無政府主義者への弾圧を描くと言えば、後の吉田喜重による「エロス+虐殺」と同テーマに思わせるが、流石に大蔵貢東宝だけあって、タイトルからも分かるように見世物性に徹底している。開巻からの関東大震災朝鮮人無政府主義者の虐殺を露骨に描く節操のなさに呆れつつ、思想も倫理も超越し、見世物に徹することによる潔さが見られる。
個人的には、以前自主制作した短篇映画と酷似していることで並々ならぬ興味を持ったが、これは大杉栄虐殺事件と残党による軍閥を狙ったテロという史実を共にモデルにしているのだから似てくるのは当然で、製作する前に観ておけば、参考になったのにと悔やまれる。
後半のテロ計画の過程が面白い。殊に新東宝末期とは言え、ATG作品とは比較にならない程セットも充実している。とは言え、寝た女が自分の殺した銀行員の娘などという設定の安っぽさなど、ドラマ展開は極めて単調である。
全体的には「バトルロワイアルⅡ」同様、映画の完成度はさておいて、テーマの好ましさから高く評価したい。

2)素晴らしき日曜日 (DVD) ☆☆☆★

素晴らしき日曜日 [DVD]

 1947年 東宝 モノクロ スタンダード (108分)
 監督/黒澤明 出演/沼崎勲 中北千枝子


黒澤第6作にして戦後第2作。7年振りの再見となったが、この作品に関しては全く印象が薄く、ラストのカメラ目線での拍手を求めるシーンのみを覚えているだけだった。黒澤映画でここまで印象が薄いのは珍しいので何故だろうと思いつつ再見したら、理由がわかった。黒澤映画にしては異色なほどダイナミズムに欠け、各シークエンスが単調である。それは黒澤自身も認識しているようで、脚本の植草圭之介の資質が多く出た作品と言えるようだ。
現在からは、戦後間もない東京の風景、風俗が興味深く、「野良犬」へと続くセミドキュメンタリー形式で捉えた東京が生々しい。
主演二人に魅力が薄く、役者の力と画面の造形でダイナミックに見せる黒澤映画の魅力が欠け、かと言って小品の淡いラブストリーにもなっていない。日比谷公園を疾走する二人を隠しカメラで捉えた横移動等、魅力的シーンもあるだけに残念だ。