映画

molmot2004-04-20

1)キューバの恋人 (フィルムセンター) ☆☆☆ 

1969年 日本・キューバ モノクロ スタンダード 黒木プロ=キューバ国立映画芸術協会 101分
監督/黒木和雄  出演/津川雅彦 グロリア・リー ジュリー・プランセンシア


 フィルムセンターのエレベーターで黒木和雄監督と一緒になり、今日舞台挨拶があることを初めて知った。客席には「キネマ旬報」元編集長植草信和氏の姿も見られた。
 上映前に黒木監督から挨拶があったが、彼を生で見たのは、98年のシネヌーヴォ梅田でのオールナイト上映以来で、その時の質疑応答で「新作の劇映画の予定は?」と、今思えば8年余り新作が撮れない巨匠に向かって配慮を欠いた質問をしてしまったと思うが、苦笑しつつ、「全く予定はありません」と答えられたのを思い出す。しかし、2000年の「スリ」をリハビリに、「美しい夏、キリシマ」「父と暮らせば」が連続して完成し、年内には念願の山中貞雄を描いた「ロングロングアゴウ」(仮題)がインできるやも、という好調ぶりだけに、6年前にお見かけした時よりも、快活な印象だった。
 さて「キューバの恋人」だが、この作品は先頃DVD化されたものの、レンタル等で観る機会がなかった為、今回が初見となる。「とべない沈黙」と「日本の悪霊」の間に製作された作品で、作品としては「とべない沈黙」に近い印象がある。
 キューバとの合作作品での監督指名を受け、脚本も完成しないままに、最小のスタッフ(監督、助監督、撮影、撮影助手、録音、録音助手の6人だったという)と主演の津川雅彦を得てキューバに向かい、即興に近い演出で完成したという。確かに、津川雅彦のサングラス姿でキューバの町を歩く姿はジャン・ポール・ベルモンドを彷彿させ、次々と女の子に声をかける軽妙さや、空き地で銃撃の真似をする姿など、ヌーヴェルヴァーグの影響濃厚で、こんな魅力的な街に来てしまえばこんなこともしたくなるだろうとは思った。しかし、「とべない沈黙」にあった蝶という記号が媒介になって日本という国の同時代性を描写するというような姿勢がこの作品にはない。黒木にとってキューバは所詮珍しい外国の国の一種に過ぎず、キューバの観光案内ビデオにしかなっていないと思う。鈴木達夫の撮影が美しいだけに残念だ。