映画

1)「Seventh Anniversary」 (DVD) ☆☆★★ 

2003年 日本 カラー ビスタ アミューズスープレックス 76分
監督/行定勲  出演/小山田サユリ 柏原収史 津田寛治

行定勲 Hert Wraming Collection Seventh Anniversary [DVD]


 多作の行定勲の作品は、劇場初公開作の「ひまわり」から「贅沢な骨」「GO」「JUSTICE 」までは劇場で追えていたが、「ロックンロール・ミシン」「Seventh Anniversary」「OPEN HOUSE」、その他TVでの活動を見逃している。今年は「きょうのできごと」「世界の中心で愛をさけぶ」「北の零年」と続くだけに、極力今のうちに追いたいと思っている。
 この「Seventh Anniversary」は昨年末劇場公開されたが、DV撮り作品であるということと、年明けには早々のDVDリリースが決まっていたので、劇場ではスルーさせてもらった。
 元々本作はENBUでの卒業制作として、行定が講師を勤めていた俳優養成コース所属の生徒46人全員を出演させる映画として企画されたものだ。しかし、あまりの低予算に行定が自分の名前を冠した作品として成立させられないと辞退(生徒全員出演作は講義を手伝っていた近藤太によって完成)した。しかし、映画を撮る機会を無駄にしない行定は、スポンサー集めの意味もあって、ENBU学生が出演する作品とプロが出演する作品を同じ脚本で製作することを提案した。その結果生まれたのが本作で、映画においては珍しいWキャスト版となった。
 本来ならば、2ヴァージョンを比較したいところだが、残念ながら今回リリースされたDVDはプロ俳優が出演したヴァージョンしか収録していない。TVでも三谷幸喜の「三番テーブルの客」等でしか(旧作のリメイク時に同一脚本を使用する例は除く)Wキャストは実現していないだけに、是非観たいと思う。又、ENBU学生版はモノクロ且つプロ版と連続して撮影していることから、木下恵介の「カルメン故郷に帰る」、大林宣彦の「野ゆき山ゆき海べゆき」、コーエン兄弟の「バーバー」にも通じるカラー版とモノクロ版が双方存在する作品における比較をしてみたかった。
 この作品は行定の原案を基に普段は行定組の小道具スタッフの伊藤ちひろが脚本を担当している。従って「贅沢な骨」に似てくる部分もあるのだが、印象に残るのが「手を挙げる」という動作だ。「贅沢な骨」において永瀬正敏は名前を呼ばれた際、後向きで右手を高々と挙げた。本作では小山田サユリ尿道結石で排出された石を指輪にしてもらい、右手に付けた指輪を高らかに掲げ歩道橋を降りてくる。その手をタッチしてきた男によって、小山田はキャバクラへ連れて行かれる。次にオークションのシークエンスにおいて男達は小山田の指輪を欲し、次々に手を挙げる。そして最後にゆっくりと手を挙げた津田寛治によって落札され、小山田は津田と石を売る仕事を始める。「手を挙げる」という行為によって、主人公の人生に大きな変化がもたらされる。そして、最後に巨大な月に向かって主人公が手を挙げた時、物語は終焉に向かう。しかし、ラストの主人公の刺殺や骨を見せるのは「贅沢な骨」に酷似し過ぎてくる上に、構成上も無理がある。肝心の石を奪われるシーンをカットしたのは致的。あるいは、主人公が自分でやったとも考えても良いがそれならば暗示するショットが必要。
 又、尿道結石の石が世間であっという間に大ブームを起こすというウソのつきかたが非常にヘタで、リアリズムと寓話性の徹底不足が感じられる。この辺りは師匠の岩井俊二の方が数々の深夜ドラマで試みて、彼なりのウソから出たマコトを成立させられるに到った。それは最新作の「花とアリス」における記憶喪失というリアリティーに欠けた設定と、花のついたウソを貫き通すという劇中内の無理のある設定をあえて置き、巧みにそれを成立させてしまったことでも明らかだ。
 この作品では近年の日本映画の引用が見られる。猪俣ユキ三輪明日美がカラオケBOXで石を売るシーンは完全に「ラブ&ポップ」におけるマスカットの男のエピソードの引用であるし、橋で女子高生が援助交際するシーンは「リリィシュシュのすべて」における蒼井優の橋のシーンの引用とは言えまいか。
 危惧していたDVの質感だが、さほど生っぽさも出ておらず、いつもの行定組だけに安定した画面作りがなされている。
 「ひまわり」や「贅沢な骨」は、構成や映画として欠点が数多いが、簡単に切り捨てられない魅力を持っていることは否定できない。本作も同様で、小山田サユリという麻生久美子に通ずる美しさを有する女性のがこの作品の欠点を補い、魅力として輝いている。


2)「ライフ・イズ・ジャーニー」 (DVD) ★

2003年 日本 カラー ビスタ 51分
監督/田辺誠一 出演/大塚寧々 小林賢太郎 市川実日子

ライフ・イズ・ジャーニー [DVD]


 田辺誠一の監督作品は「DOG-FOOD」と「discord」を劇場でワザワザ観て非常に不愉快だったので、本作を劇場で観るべきか迷ったが、期を逃した。
 この作品は「LIFE」「ん?」「ヤ」「No Where」の4本によって構成されている。「LIFE」のみがスーパー16で撮影され(撮影は山本英夫)、他はDVX-100でバリカムの製作に携わった阪本善尚が担当している。
 言っては悪いが、観れるのは撮影にプロの中でも突出している山本英夫と、巨匠阪本善尚が加わっているからで、作品としては酷いと思う。
 「LIFE」は一人の女性の生涯を横移動の1カットで表現しているが、方法論が先立ち、映像としてのハッとする瞬間はまるでない。
 「ん?」と「ヤ」は連作になっている。「ヤ 」のつぐみと市川実日子の室内描写など、雰囲気は悪くなかったが結局極めてクダラナイ言葉遊びに終わってしまい、こんなもので日本語とコミュニケーションの関係が表現できているとは思わない。
 「No Where」はhitomiを主演にポルトガルリスボンでロケされたもの。「キューバの恋人」同様、風景に依存しすぎた内容空疎なシロモノ。hitomiが魅力的に扱うこともできうるキャラクターだけに生かしきれていないように思う。
 全体としては、名匠阪本善尚がDVX-100でこれだけのフィルムライクな映像が作りこめるのだと教示してくれたサンプルとして価値がある。


3)「腐る女」 (VIDEO) ★★★ 

1997年 日本 スタンダード 9分
監督/山下敦弘 出演/斉藤美樹 財前智広 熊木孝


 1997年のスクリーンサーカスで2回、1998年のPLANET+1でのオールナイトイベントで1回観たが今回改めて再見して、初見の『商売になる監督』という印象は当っていたように思う。
 この作品は制作Ⅰという映像学科の2回生になると10分間の短篇を制作する必修科目の授業内で作られたものだが、初上映当時、その他の作品と比べても異様なまでに群を抜いていた。
 協力のクレジットに「鬼畜大宴会」のスタッフの名が連なっていることから、あの精巧な特殊造形等の協力があったであろうし、授業時間の枠組みを越えて撮影されているであろうことは容易に察しがつくがつくが、むしろそれぐらいのことをしないと、単なる16mmの実習でしかないモノを映画作家としてのチャンスを得る機会に変えることはできない。
 現在の山下敦弘の作風とは全く異なるが、彼のホラー映画を観たい、又その才能を感じさせる作品だ。


4)「断面」 (VIDEO) ★ 

1998年 日本 スタンダード 20分
監督/山下敦弘 出演/山下敦弘


 8ミリ自主作品。こちらも1998年のPLANET+1でのオールナイトイベントで一度観ているが、あの時は未だ「どんてん生活」は制作途中で、山下敦弘と言えば「腐る女」の印象しかなかったので、会話を主体とした情けない男達の物語には面食らった。今回再見して随分と面白かった。
 一室を舞台に男二人の微妙なホモ色を匂わせる怪作で、春夏秋冬のクレジットと、男二人の微妙な会話は、現在の山下の作風の原点的味わいがあり面白い。
 ラストに不要な風呂敷を広げたのが典型的自主映画の悪路に嵌っていて失敗している。


5)「ヒロシとローラン」 (VIDEO) ★ 

1999年 日本 スタンダード 15分
監督/山下敦弘 出演/山本浩司 かわむらみつよ


 ビデオ作品。
 童貞臭い男と外人の室内劇。山下のオフビートな笑いの線がはっきりと出ているが、好みではない。