書籍

1)「遊郭の少年」辻中剛 (パロス舎)
2)「世界の映画作家12 アルフレッド・ヒッチコック」 (キネマ旬報社)
3)「女たちよ!」伊丹十三 (文春文庫)
4)「自分たちよ!」伊丹十三 (文春文庫)

 東京古書会館に寄ったついでに神保町を物色。今村昌平が映画化予定だった「新宿桜幻想」の原作「遊郭の少年」が平台で400円で叩き売り。直ぐ購入。中学2年の頃、書店で『今村昌平映画化を断念!』という帯付きで積まれていたのが印象的で、あの時買っておけば良かったが、以降書店で見かけることもなく、文庫化もされず、ようやくの購入。
 神保町の映画本は割高で、キネ旬から出ていた世界の映画作家シリーズなど2000円以上になってしまっている。前々から欲しかったヒッチコックの回も2500円あたりが平均値である。この価格で買うのは悔しい。大阪ならもう少し安い。裏手の古書店に見当つけて飛び込み、一角の映画本コーナーを見ると、状態の良いものが1200円で売られていたので購入。このあたりの値の差異が古書店を廻る楽しさではあるのだが。このヒッチコック特集では、ヒッチ来日の折の「ヒッチコックマガジン」誌上での対談が再録されているのが貴重で、司会の中原弓彦(小林信彦)他、江戸川乱歩双葉十三郎淀川長治品田雄吉がヒッチ夫妻を囲むというレアなモノ。他にも南部圭之助荻昌弘山田宏一田山力哉筈見有弘が執筆し、そして中原弓彦渡辺武信の対談という濃密なものもある。1971年出版なので、「ヒッチコックトリュフォー映画術」もなければ、未輸入作品、旧作の上映の機会もなく、執筆者が観ていない、或いは覚えていないという状態でこれだけの本を出す苦労が伺われるが、それでも十分な面白さはある。
 伊丹十三のエッセイは、97年末の自殺を契機にエッセイが重版されたのだが、それも今では品切れが続出で、「再び女たちよ!」「日本世間噺体系」「女たちよ!男たちよ!子供たちよ!」「問いつめられたパパとママの本」は何とか新刊書店で入手できたが、それ以外が無理だったので仕方なく古書店で「ヨーロッパ退屈日記」そして今回の2冊を入手することにした(「夫夫105円也。)。これで「小説より奇なり」が見つかれば刊行されている伊丹のエッセイは全て揃う。エッセイストとしての伊丹は無類に面白く、再評価されなければならないと切に思う。市川崑が伊丹を評して『1にエッセイ、2に映画監督、3が俳優』とランクしていたが、これは至言である。映画もそうだが、CM、ドキュメンタリーの分野での伊丹の業績も素晴らしく、まだまだ埋もれている作品がある。生前、殊に「あげまん」以降、露骨に嫌われていたヒトではあるが、そのせいで評価すべき部分まで隠れているのは惜しまれる。伊丹十三の再評価には未だ十数年かかる気がする。