映画

molmot2004-04-27

1)「黒い雪」(VIDEO) ★ 

1965年 日本 第三プロダクション シネマスコープ 
監督/武智鉄二 出演/紅千登世 花ノ本寿 美川陽一郎

 
 戦後、官憲の弾圧を直接受けた映画は幾つもあるが、その代表例として挙げられ、後の日活ロマンポルノ裁判、「愛のコリーダ」裁判に先駆けて、猥褻図画公然陳列罪で実際に起訴され裁判に到った作品として、武智鉄二の名前と「黒い雪」のタイトルはよく耳にした。なかなか観る機会がなく、今回ようやく観れたのだが、作品としては全く評価に値しない素人芸以下の駄作だった。勿論、猥褻裁判とは別問題で、今となってはこの作品のどこが猥褻なのかというぐらい大人しいものだし、あくまで作品は自由に作られ自由に観られるものだ。
 横田基地に隣接する売春宿を舞台に、米軍相手に売春する娼婦を描いているのだが、とりとめのないエピソードが弛緩した演出で散発的に描かれているだけで、前衛芸術家である武智鉄二が映画製作に乗り出して作った割には極普通のピンク映画でしかなく、他の「白昼夢」や「紅閨夢」はどうなのだろうか?
 一番の見せ場となるのが、横田基地の金網越しに全裸で疾走するシーンで、実にわかりやすい反権力・反米を象徴するシーンではあり、その心意気は賛同する部分もあるが、それが性を介して基地問題を描く象徴として使っているのなら、余りにも図式的だと思う。勿論1965年において、このシーンの持つ衝撃性を考えなければならないのだが。


2)「裏切りの季節」(VIDEO) ☆☆☆★★ 

1966年 日本 若松プロダクション シネマスコープ 77分
監督/大和屋竺 出演/立川雄三 谷口朱里 山谷初男


 
 場としての若松プロは、セントラルマンションにおいて日々若松孝ニの新作を製作する場としてだけではなく、足立正生田中陽造大和屋竺、曽根中正、山口清一郎山本晋也、山下治、沖島勲、小水一男、林静一等に脚本、監督、助監督としての場を提供したことでも特筆される。プロデューサーとしての若松は、その時点で彼が判断しなければ監督作品を発表できない人達に監督させているという点が重要で、成功作、失敗作があるものの、その判断は高く評価されねばならない。
 この作品は若松プロデュース作品の中でも、依頼されてプロデュースを務めた「愛のコリーダ」を別格にすれば、既に観ている足立正生が監督したピンク映画7本と、沖島勲の「ニュージャック&ベティ」と比べても最も成功した作品ではないか。
 この作品は大和屋竺が初監督した作品だが、一応ピンク映画の枠組みに入るのだろうが、むしろ「殺しの烙印」のテイストに当然ながら近い。ベトナム帰りのカメラマンを主人公に、同僚の死んだ男が遺した写真と遺された男の彼女、謀略集団からの接近が描かれる。いつもの若松作品のスタッフを使いながら画の重厚感、ジャンプカットの巧みさは清順譲りと言うよりも既に大和屋竺のモノである。若松自身も力を入れて通常の撮影よりも時間を割いたせいか、各カットが実に素晴らしい。殊に、死んだ筈の男が生きているのではないかと主人公が疑念を抱きだしてからは、大和屋竺の独壇場で映画としても、ここから圧倒的に面白くなる。ラストの傘が下手へと流されていく秀逸なショットと共に、忘れがたい作品だ。感化された若松はアンサームービーとして「胎児が密猟する時」を同年発表している。


3)「ディボース・ショウ」(Tジョイ大泉) ☆☆☆★★ 

2003年 アメリカ ユニヴァーサル ビスタ 102分
監督/ジョエル・コーエン 出演/ジョージ・クルーニー キャサリン・ゼタ=ジョーンズ ジェフリー・ラッシュ
ディボース・ショウ [DVD]
 コーエン兄弟の作品を初めて劇場で観たのは「ファーゴ」だが、以降「ビッグ・リボウスキ」「オー!ブラザー」「バーバー」と秀作揃いで、全くハズレがない。現在の映画監督で全幅の信頼を持って新作が観られるのはコーエン兄弟だけで、今のところは裏切られたことがない。当然本作も相変わらず好調で、十分楽しめた。
 ビリー・ワイルダーの作品を観ると常に語り口の巧さ、脚本の素晴らしさに舌を巻くように、コーエン兄弟の作品も圧倒的に脚本の語り口、伏線の張り方が際立っている。殊に、近年はハリウッド映画は企画不足は勿論のこと脚本の低下が顕著で、その中でコーエン兄弟が目立つのは当然だ。
 本作は「オー!ブラザー」に続いてジョージ・クルーニーと組んだライトコメディで、クルーニー演じる離婚専門弁護士が巧みな法廷術で勝訴していきながら、その中で知り合った離婚慰謝料目当てに次々と金持ちと結婚するキャサリン・ゼタ=ジョーンズに恋する物語だ。
 後半の二転三転のどんでん返しが楽しく、コーエン兄弟の話術にすっかり引き込まれた。伏線や、どんでん返しというのも最近のハリウッド映画でも当然やっているのだが、いかにも取って付けた様なものや、強引な伏線の回収をラストで慌ててやったり、演出家の力量がそれをうまく画にできていなかったり、なかなか決まってくれない。その点コーエン兄弟は慣れたもので、破天荒な破れ目を幾つも設定し、それを荒唐無稽と観客が思う前に映画的処理を巧みに施してくれるのだから、観ていてこれ程楽しいものはない。
 開巻のTVプロデューサーと妻との離婚騒動が、作品の根幹に最終的にはうまく繋がるのだが、もう少し大きく繋げた方が印象深いシークエンスだけに良かったと思う。
 メジャー進出作品の為、ハリウッドメジャー枠の定型に収まりすぎて、コーエン兄弟らしさに欠ける嫌いがややあるが、小品の佳作として一夕のエンターテインメントには申し分なく、このレヴェルの作品が増えなければ、アメリカ映画の存亡に係わるのだが。コーエン兄弟がメジャー進出を決めたのも、そのあたりに理由があるような気がする。ファンとしては、これまでゴマンと観てきたメジャー進出、或いはハリウッド進出によって才能をスポイルされ、凡庸な作品を数作作って消えていった幾多の監督達を思い浮かべ、コーエン兄弟も同じ命運を辿るのではないか、否「未来は今」の失敗でインデペンデントに戻り着実に作品を作りつづけた彼等のことだから大丈夫であろうとも思うのだが、本作における僅かな杞憂が今後拡大しないことを祈りたい。次回作は近日公開でトム・ハンクス主演で「マダムと泥棒」のリメイク「レディ・キラーズ」である。