映画の噂

乱歩地獄」―浅野忠信成宮寛貴松田龍平を主演に「火星の運河」(監督:竹内スグル)、「鏡地獄」(監督:実相寺昭雄)、「芋虫」(監督:佐藤寿保)、「蟲」(監督:カネコアツシ)をオムニバス映画化。来年公開。

 
 実相寺は「屋根裏の散歩者」「D坂の殺人事件」以降、伊藤晴雨を映画化したいとか、乱歩なら「陰獣」か「盲獣」を映画化したい(前にメジャーで大々的にやってますがなとは思ったが)と言っていただけに、ようやく本編復帰が適って嬉しい。今回の諸作品はこれまで映像化されなかったものばかりだけに期待できるが、乱歩は基本的に映像化には不向きな作家で、小説があまりにもヴィジュアル的過ぎるので、とてもそれに拮抗できるものを作るのは難しい。どんなに変態的な歎美な映像を撮ったところで、乱歩には及んだ試しがない。「恐怖奇形人間」は3回程足を運んだが、丹念に見返したが、乱歩の、ではなく石井輝男の世界観を持ち込むことによって成功しているのであり、それは新作の「盲獣vs一寸法師」にしても同様(今回の正規上映は観ていないが3年前のプレミア上映で初見)で、やはり乱歩の世界観に最も近いのは実相寺である。殊に「屋根裏の散歩者」は秀作だった。
 それにしても個人的にショックなのは「芋虫」が映画化されてしまうことで、これは神代辰巳も映画化を試みて果たせなかった作品だが、自分も乱歩の作品の中で最も気に入っており、いつか自主制作でも良いから映画化したいと思っていた。主演には乙武君を希望していたのだが…更に「蟲」まで映画化されてしまうとは。まだ「芋虫」は佐藤寿保だけに期待しなくもないが、竹内スグルとカネコアツシは全く期待できない。大体「蟲」の様な優れた作品をカネコアツシが扱えるのかどうか。前述した様な自身の世界観に持ち込んで再構成させるしかないのではないか。
 更に残念なのは実相寺乱歩の明智嶋田久作と決まっているのに今回は浅野忠信に変わってしまうことで、「D坂の殺人事件」で小林少年を三輪ひとみに演じさせ、明智との性的な関係を匂わせる快挙を成し遂げただけに無念である。
 全編実相寺が撮るか、鈴木清順市川崑を呼んできてオムニバスにした方が確実に面白いものになるのだが。そういえば日本では巨匠のオムニバスは実現しない。10年ほど前の奥山Jr全盛期に市川崑大島渚、深作欣ニでオムニバスを撮る企画も流れた。まあ、このヒトタチで何を撮るというのかという感じではあるが。