映画

1)「レディ・キラーズ」〔THE LADYKILLERS〕(東商ホール) ☆☆☆★ 

2004年 アメリカ ブエナビスタ カラー ビスタ 104分
監督/ジョエル・コーエン 出演/トム・ハンクス グレッグ・グランバーグ イルマ・P・ホール
レディ・キラーズ [DVD] 
 「ディボース・ショウ」に続いて2週間毎にコーエン兄弟の新作が観られるのは嬉しい限りだが、今回の最大の杞憂は、恥ずかしながらオリジナル版の「マダムと泥棒」を観ていないというコトに尽きる。観ていないので、オリジナルとリメイクの比較、コーエン兄弟がどの程度の脚色を行ったのかが全くわからない。近く廃盤になっているオリジナル版のビデオを入手できる予定なので、最終的な結論はその時まで保留しておきたい。
 基本的に自分は、近年のハリウッドが往年の名作を節操なくリメイクしまくっているのが不愉快で、極力観ないようにしている。だって「麗しのサブリナ」や「ダイヤルMを廻せ!」「サイコ」「シャレード」等を気軽にリメイクして成功するわけがないのだから。
 とは言え、コーエン兄弟の新作とあっては観ないわけにはいかない。オリジナル版を観ていなくても観ようという気にさせたのは、コーエン兄弟だからに他ならない。
 「ディボース・ショウ」を観た時に、メジャー進出を積極的に進めるコーエン兄弟がハリウッドの渦に巻き込まれて、才能を枯渇させはしまいかと杞憂したが、その杞憂は当っていたようである。明らかに「ディボース・ショウ」に続き職人的技術の切り売りの度合いが高まっている。勿論これは「ファーゴ」や「ビッグリボウスキ」「オーブラザー!」「バーバー」といった傑作と比較してのハナシで、現在のハリウッドメジャー映画の凡作と比べれば、遥かに魅力的ではある。
 コーエン兄弟が名作と名高い「マダムと泥棒」のリメイクを引き受けたのは、当然ながら彼等が『完璧を期した犯罪が崩れ去る滑稽さ』に固執した作家であるからに違いないが、本作では、肝心の犯罪自体の描写が弱い。トンネルという使い古された設定のせいかもしれないが、今村昌平の「果てしなき欲望」を例に出すまでもなく、トンネルには映画的魅力が詰まっているのだから、彼等ならば、十分に斬新な見せ方ができたと思うのだが。相変わらずの50年代愛好が全編を覆っているにも係わらず時代設定は現代という違和感や、トム・ハンクスのオーバーアクトの不快感、「オーブラザー!」の如き有効な使い方がされていないゴスペル等、彼等の片鱗が見受けられるだけである。
 前半の圧倒的凡庸さに比べて、後半は彼等が最もやりたかったであろうスクリューボールコメディ的展開が繰り広げられ、事実かなり面白くなるわけだが、アルフレッド・ヒッチコックが「ダイヤルMを廻せ!」で前半のグレース・ケリーが刺す件まで敢えて凡庸なハリウッド的な四方からのダレた撮り方をしていたのとは意味合いが違う。
 とは言え、彼等に思い入れがない向きには、それなりに好評のようであるし、ネタバレになるので言えないが、後半は彼等の独壇場で爆笑が約束されるので観る価値はある。
 しかし、コーエン兄弟がこのままハリウッドの渦に飲み込まれてしまうとしたら、と考えると辛くなる。
 5月22日公開。