幻の黒澤作品「明日を創る人々」がFCで上映

 
 遂にと言うか、長らく存在のみ知られていた現存しながら幻の作品だった「明日を創る人々」がフィルムセンターで上映される。今から既に殺気に満ちた入場争奪戦が予想され鬱になるが、しかし、これは何が何でも観なければなるまい。黒澤明の様な昭和18年デビューの監督ですら作品に欠落が生じているのは、日本の映画文化への無理解を象徴しているのだが、「姿三四郎」は戦後GHQによる検閲、若しくは昭和20年の再公開の際に戦中の映画法の尺数制限により10数分のエピソードが切られている。このうち数分は先頃ロシアで発見され、現在発売されているDVDには組み込まれたヴァージョンで観ることも可能である。又、「白痴」の完全版も一部好事家が個人所有しているだけで、松竹は紛失したままである。そして昭和21年製作の「明日を創る人々」は東宝争議によって製作された組合映画で、山本嘉次郎、黒澤、関川秀雄の共同監督作品である。しかし後年、黒澤は自身のフィルモグラフィーから外したこともあり観る機会は全くなかった。
 「大島渚1968」でもTVで製作したドキュメンタリーの中には大島がフィルモグラフィーから外している作品があると語っていたが、作家自身の提出するフィルモグラフィーなど信じてはならない。実際大島に関しては「ハンマープライス」の企画の一つとして、どこかの小学生の卒業式を撮影した作品があったはずだ。クレーン等を用い、大島のナレーションも入るこの記録映像は、大島が式典における日の丸や国家斉唱をどのように扱ったかを含めて観たいと思う。
 現存するのに観る事が可能ではない作品は無数に存在しており、それこそ三島由紀夫の「憂国」や、あるいは問題はないのにビデオ化も上映の機会のない作品というのも際限なくある。
 今回の「明日を創る人々」の上映がこういった現状打破の契機になって欲しいと思う。後は、「どら平太」でも製作を止めに掛かったクロパンが横槍を入れてこないことを祈るのみ。