映画

中島貞夫 緊急アンコールナイト
1)「にっぽん’69 セックス猟奇地帯」(新文芸坐) ☆☆☆★

1969年 日本 東映京都 カラー スタンダード 
監督/中島貞夫 出演/唐十郎

 
 ようやく観ることができた思いが先立つのだが、「新宿泥棒日記」と並ぶ1968年の新宿を捉えた貴重な風俗資料として一級のものだが、その件は後述するとして、まずカラーであることに些か驚く。(撮影は16mm、上映は35mmにブローアップしている)同時代の同系統の作品のほとんどがモノクロであることから、本作も同様に思い込んでいたのだが、そこは流石メジャー会社東映といったところであろうか(「遊撃の美学 映画監督中島貞夫」によると製作費は1900万だった由)。
 開巻は、カラーで捉えられた1968年の新宿である。空撮を使用している段階でATGとはエライ違いなのだが、続いて東口や現アルタ前で、歩きながらシンナー遊びに耽る若者達を捉える。撮影は中島貞夫の盟友赤塚滋で、晩年の数年をお見かけしたかぎり温厚な気真面目な方なので、この様な同時代性に溢れるキワモノドキュメンタリーを、どのような思いで撮影しておられたのかという思いを抱きもしたが、プロとして実直に撮影しておられた。
 花園神社の唐十郎を始めとする状況劇場演じる「腰巻お仙」の一部、10・21の新宿騒乱等、1968年の半ば伝説化している新宿の息吹を伝えていて非常に面白かった。前述した大島渚の「新宿泥棒日記」と本作の比較だが、言わば「バウンス koGALs」と「ラブ&ポップ」の表裏関係に近いと思った。同じく援助交際を題材にし、渋谷という街を舞台にしながら前者は表通りを舞台にオーソドックスな青春物語に昇華させた佳作であり、後者は極力裏通りを舞台にし、撮影手法を含めて極めて実験的側面の強い作品に仕上がった。これは本作と「新宿泥棒日記」にも当て嵌まる。話題の場所、ヒトを節操無くオーソドックスに捉えた本作と、大島渚の新宿像を多重な世界観と実験的手法で描いた「新宿泥棒日記」。(因みに「新宿泥棒日記」の製作費は「大島渚1968」によると2000万円とのこと。両者共ほぼ同額だが役者を使わない中島の方が製作費的にはかなり楽だった模様)。又、京都出身で創造社設立後、代々木に事務所があった関係で新宿で飲むようになった大島と、東京で大学生活を送り、東映京都に籍を置く中島の新宿というものに対する距離感の違いと考えても良いかも知れない。因みに「にっぽん’69 セックス猟奇地帯」の公開が1969年1月18日、「新宿泥棒日記」が同年2月15日である。
 個人的にはこのまま全編新宿を描いてもらえると良かっのだが、東映的猥雑さに満ちた本作がそのまま終わるわけはなく、続いて美容整形の実態と称して隆鼻手術、豊胸手術等の様子が生々しく描かれる。これは余りにも露悪的で、シリコン注入や、二重瞼にするために瞼を切開する様など、この手のものに平気な自分としても流石に気分が悪くなった。殊に、その手術の様子が、というよりも部屋のカーテンが汚いとか、清潔に思えない部屋で整形手術をやっていることが不快。こんな時代に整形やると弘田三枝子みたいになってしまうという偏見があるのだが…
 以後、海水浴場でボディペインティングする少女、銀座でパフォーマンスを繰り広げるゼロ次元、カウンタ−の下で踏まれることに快感を覚える性倒錯者、乱交パーティー、写真スタジオと称した風俗店、トルコ風呂、関西ストリップ、刺青を彫られる女等、これでもかとケバケバしいまでに当時の性風俗が紹介される。個人的に面白かったのが、ブルーフィルム業者で、無人島に上陸して女を酔わせた上で撮影に入る様子など、「エロ事師たち 人類学入門」を想起させ興味深い。そして圧巻が飛田遊郭にカメラを持ち込んでいることで、これは風俗資料として貴重である。
 ラストは再び唐十郎が沖縄を訪ね、基地のある街としての沖縄を捉え、混血女性へのインタビューなどが行われる。
 全体としては、ひたすら猥雑に日本の現況を撮影し、投げ出すように提出する姿勢が好ましく、風俗的部分には退屈なものが幾つかあるが、新宿、ブルーフィルム、飛田が登場しただけで個人的には満足した。


2)「ポルノの女王 にっぽんSEX旅行」(新文芸坐) ☆☆☆★★

1973年 日本 東映京都 カラー シネスコ 72分
監督/中島貞夫 出演/クリスチナ・リンドバーグ 荒木一郎 有川正治 下馬二五七


 続いて、これも非常に観たかった作品だが、タイトルとは裏腹に素晴らしい佳作だった。
 荒木一郎はスクリーンに映える顔をしている。世代的に荒木の全盛期やTVドラマに出ていた頃を知らず、歌手という知識のみが僅かにあったぐらいで、実際に荒木を初めて観たのは大島渚の「日本春歌考」である。この時の印象は映画共々、そう良くもなかった。どうも馬鹿にしている。観客は勿論、監督やスタッフまでもを馬鹿にしたような不貞腐れた態度で芝居をしているように見えた。しかし、何度か観る内に作品の奇妙な魅力に惹かれ今や大島の作品中でも最も好きな作品に入るのだが、荒木の真価が判ったのは「悪魔のようなあいつ」を経て、今回の中島貞夫の特集上映によってである。殊に「893愚連隊」の荒木は素晴らしかった。
 本作は荒木の魅力に満ちた作品で、荒木だからこそ、ここまでの作品になったように思う。
 ハナシ自体は、ストックホルム症候群を含めてありがちな監禁モノで、今ならさしずめ「完全なる飼育」シリーズに組み込まれそうなものだが、売りになっているのがクリスチナ・リンドバーグが出ているということで、リアルタイムで知らないだけに彼女の人気がどんなものだったのか知らないのだが、当時「新・女子学生レポート性感優等生」等に出演していた。来日して「不良姐御伝 猪の鹿お蝶」を撮り、続いて出演したのが本作ということらしい。
 監禁モノとは言え、外人モノという表層的珍しさは、同時に言葉が通じないというコミュニケーションの不通に発展し、コミュニケーションを取る能力が欠けていたり、或いは取りたくないから拉致監禁に到るという定石を覆し、むしろ最低限の会話すら通じないから拉致した者がコミュニケーションを必死で取ろうとする逆転現象が描かれていて面白い。それも監禁場所が東寺が見えるバラック小屋というのが泣ける。恐らく位置的に、京都みなみ会館の近く辺りで撮影しているのだろうが、「狂った野獣」同様、自分の世代だと京都でこんな映画が撮られていること自体が物珍しく感じてしまう。
 荒木は部屋で悶々と自家製爆弾を作っているという、足立正生の「性遊戯」に登場する女の兄同様の時代を感じさせる設定だが、自家製爆弾を作るという設定自体個人的に好ましく、非常に心地良く観ていた。
 荒木はリンドバーグが故国を懐かしがっていると誤解し、間違ったスウェーデン料理を用意して彼女を喜ばせようとする件の侘しさは胸に染みた。
 穴があるように見えつつ、それなりに通ったプロットで、中島貞夫のポルノ映画として完結しており、プログラムピクチャーの佳作として仕上がっている。中島貞夫の大衆憎悪は、「狂った野獣」を始めとして根底に敷き詰められているが、今回も隣人の厚かましいバアさんに端的に描かれている。
 ラストに警察が押し寄せ、全てが無に帰す時、荒木は爆弾を目を瞑ったまま階段から階下へ投下する。しかし不発である。この後、イメージシーン的に爆発が描かれ、轟音と共に完の文字が出るのだが、ここが評価の別れ目ではないかと思う。開巻近くのイメージシーン的な爆発と生首の描写も全く不要だと思うが、中島貞夫の映画で投げる爆弾は不発であってこそ相応しい。

3)「くノ一忍法」(新文芸坐) ☆☆☆★

1964年 日本 東映京都 カラー シネスコ 
監督/中島貞夫 出演/野川由美子 中原早苗 三島ゆり子 芳村真理

 
 開巻のモノクロに画面上の一部に赤く炎が着色されているのを見た時に、木下恵介の「笛吹川」を想起させ、以後全編に渡る極端に様式化されたオールセットに同じく木下の「楢山節考」を思わせたが、この時代に、デビュー作にしてこのような大胆不敵な作品を撮り上げる中島貞夫の凄さに驚くが、倉本聡の脚本を得て妖美な忍術映画として佳作に仕上がっている。
 この作品の成功の要因は徹底した様式化で最後まで押通したことで、笑いものにしかならない女忍者の性技の数々を、既に様式化されすぎた世界観の中で展開させるから違和感がない。
 ハナシと様式化された映像とのバランスが悪いのだが、基本的に芳村真理野川由美子を見る映画なので、気にならずのんびり楽しめた。

4)「日本暗殺秘録」(新文芸坐) ☆☆☆☆

1969年 日本 東映京都 カラー シネスコ 142分
監督/中島貞夫 出演/片岡千恵蔵 千葉真一 菅原文太 吉田輝雄