映画 

molmot2004-08-23

1)「16歳の合衆国」〔THE UNITED STATES OF LELAND〕
    (シネマスクエアとうきゅう) ☆☆☆★

2003年 アメリカ パラマウントクラシック カラー ビスタ 104分

監督/マシュー・ライアン・ホーグ 出演/ドン・チードル ライアン・ゴズリング クリス・クライン ジェナ・マローン

 
 少年犯罪による被疑者並びに被害者、加害者の家族を描いた作品で、ケヴィン・スペイシーがプロデュースし、出演もしている。
 今年は既にガス・ヴァン・サントの「エレファント」という素晴らしい傑作があるので分が悪いが、公平に観た所で明らかに本作の方が凡庸である。
 開巻、何らかの事件が起き、二つの家で、年配の男女や若い男女が、それぞれ事件を知る。この何が起きたのか判然としない描写が長々続く段階で既に素人臭く、映画の導入部における引張りで謎を提示するのは常套手段と言えども、それはあくまで熟練の演出家の手によるものだからこそ映えるのであり、これがデビューとなるマシュー・ライアン・ホーグには荷が重かったようだ。それは以降全編について言えることであり、自身の能力以上の演出を随所に盛り込もうとして失敗している。
 『知的障害者を殺害した主人公』は何故殺意を抱いたのか?という根幹の大命題を描こうとしているのか、被害者側の家族の悲哀を描こうとしているのか、加害者側の家族の問題を描こうとしたのか明解ではない。ではこの三者を巧みなバランスで配されているかというと、何れも中途半端な描写に終始しているとしか言い様がない。大体、黒人教師の不倫などというエピソードはどうでも良く、安っぽい挿話としか機能していない。これは前述したように、マシュー・ライアン・ホーグの演出が一本調子で淡々としているのに、いかにも作り物めいたドラマまで内包しようとするから当然の様に生じる違和感で、オーソドックスなドラマを目指すならエリア・カザンあたりを周到に研究した上で撮影に入るべきで、「エレファント」の如きぶっきらぼうな提示で描いた方が遥かに面白くなったと思う。
 クライマックスに到る布石の強盗シーンも、そこに到るまでの男の軌跡が描かれていないから、何故そこまでしてあの結末になるのかが理解し難く、単に下手糞なドラマツルギーでの手に思えてしまう。
 ジェームズ・グレノンによる撮影はブルーを強調し、透明感のある映像として定着させていて悪くないだけに、演出の悪さが目立つ。エピローグ的にモノローグで肝心の殺意の理由を語らせるなど、論外。
 全体としては、愚直に描こうとした姿勢はわかるが、その目標を少し高い位置に置きすぎたようである。