CD 「群青日和」 東京事変 

1)「群青日和」 東京事変 東芝EMI ☆☆☆★★★ 

群青日和
 
 DVD『Electric Mole』にも収録されていた「雙六エクスタシー」でのバンド東京事変が、椎名林檎の今後の主活動の場として正式に発表されても、なし崩し的な移行だったせいもあり、どうでも良かった。椎名林檎は所謂思春期の一時期に際立った能力を発揮できるタイプの典型ではなかろうかというのが私見で、実際「勝訴ストリップ」迄の作品は高校時代のものばかりで、16、7歳でオーデション番組に出演して「ここでキスして」を唄う彼女の姿やデモテープを聴いても、その思いは強まり、昨年の「林檎博」で見た直筆の文字からして10代後半の多感な時期に表現欲が溢れ出て止まらない様子が伺えた。しかし、その分だけ貯金を消費してしまうと後が難しい。結婚出産を経ての「唄ひ手冥利~其の壱~」が契約上已む無く出さざるをえなかったとしても、カヴァー集というのは弱い。勿論、素晴らしいカヴァーではあったのだが。その後、昭和歌謡路線を意図的に推し進めて「加爾基 精液 栗ノ花」に到るわけだが、これも楽曲の出来不出来にバラつきがあり、コンセプトアルバムという形式で誤魔化していたように思う。よもや、北野武と同じで「ソナチネ」の頃のような質には遥かに及ばないのだが、「座頭市」を持ってきたりして、何とか滑らかな下降線を描こうと努力している。椎名林檎の「DOOLS」に当る壊滅的駄作は「りんごのうた」で、黒子とPVセルフパロディーで話題を作らないと、とても聴けたものではなかった。椎名林檎名義での現在のところ最後のリリースがこれでは寂しい。とは言え、東京事変との活動の境界を明解にしていないのは下手打った際の安全パイとして確保するためか。
 東京事変のデヴューシングルとなる 「群青日和」は林檎は作詞のみという趣向ではあるが、正にうまく滑らかな下降線を描いていると思える林檎らしさに満ちた佳曲で、殊に表題曲が圧倒的に素晴らしい。久々に「勝訴ストリップ」の頃の質に達した感がある。後は、東京事変として椎名林檎との差別化がどの様に行われるかを期待したい。単に目先を変えただけに終わらないように願いたい。