映画 「スウィングガールズ」

molmot2004-09-11

1)「スウィングガールズ」
  (ユナイテッド・シネマとしまえん) ☆☆☆★★ 

2004年 日本 カラー ビスタ 105分
監督/矢口史靖  出演/上野樹里 貫地谷しほり 豊島由佳梨 平岡祐太

 
 矢口史靖の熱心なファンというわけではないが、「裸足のピクニック」以来、「ひみつの花園」「アドレナリンドライブ」「ウォーターボーイズ」とフィルモグラフィーに沿って観てきているが、「雨女」「ワンピース」「パルコフィクション」、TVでの「学校の怪談」は見逃したままである。
 個人的ベストは「ひみつの花園」、次いで「ウォーターボーイズ」。「裸足のピクニック」「アドレナリンドライブ」は失敗作である。「ウォーターボーイズ」は、前作「アドレナリンドライブ」で、『お金好きの女の子』という矢口的モチーフが失敗したことから、方向性を見失い、周防正行の代理として雇われただけではないのかという、こちらの偏見を一瞬にして崩してしまった秀作で、周防的プロットに矢口的ギャグが巧妙に配置されていて矢口の新境地開拓として申し分ない出来だった。一方で共同脚本は解消したものの盟友鈴木卓司と共同で「パルコフィクション」を製作し、矢口好みな真野きりな(最近どうしているのか?)で従来の矢口的世界観を崩すことなく活動していて好ましい。
 新作の「スウィングガールズ」は、プロットを聞けば直ぐに「ウォーターボイズ」と同工異曲の、と言うか、アルタミラピクチャーズ、ようは桝井省志の製作する作品の一連の流れに沿ったものであることがわかるが、せっかく当る監督として発言権を得た筈の矢口が、またしても同じ様な事を繰り返していては、周防正行長谷川和彦化と同様の結末を招くのではないかという心配があった。
 しかし、矢口は今回の元ネタとなった兵庫県高砂高等学校のジャズバンドに自ら取材に出向き、企画したという。だが、当初のプロットは女囚モノで、地下から外へ抜けるルートを発見した女囚が皆に呼びかけて脱走の為穴を掘ろうとする。しかし、そのルートは娯楽室の上を通る為、大きな音を出さねばならない。そこでジャズバンドを結成し、練習と称して誤魔化す。しかし脱走決行の日と発表会が重なってしまいどちらを取るか決断に迫られる。というものだったそうで、「マダムと泥棒」「大脱走」「バンディッツ」の寄せ集めに思える面もあるが、矢口なら西田尚美を筆頭に使って面白く作れる気もするのだが。しかし矢口に限らず、最近の2,30代の監督はハリウッド志向やエンターテインメント志向は大いにケッコーなのだが、演出能力が伴わないのにやろうとするから無残な結果を招く。矢口がそのプロットを引込め、モデルとなった高砂高校のジャズバンド部の女子高生を「ウォーターボーイズ」同様の枠組みでやろうとしたのは、賢明と言えば賢明である。
 確かによく出来ている。実際、矢口の演出はより習熟し、自主映画出身者特有のニオイを残しつつプロの映画として成立させてしまう大林宣彦以来の離れ業を習得した感がある。この作品は円熟味を増した佳作として広く観客を動員し、満足度も悪くないだろう。実際自分も楽しんで観ることができた。
 しかし、余りにも保守的である。ネタを変えていても井筒和幸の様に嘗ては自由奔放な映画を作ったヒトが「のど自慢」の如き職人技を発揮して佳作を作るのは良いにしても「ゲロッパ!」の様な大衆迎合の保守的な映画を作り始めたらオシマイで、矢口も目先のネタを変えただけで良いと思っているのだとしたら、今後期待しうるか疑問である。
 開巻から弁当の運び、食中毒までが長すぎる。「ひみつの花園」でモノローグと写真でお金に目がないという生い立ちを語り、防犯カメラで銀行強盗に巻き込まれ…と5分程で一気に説明してしまい、本編に入ったのとはエライ違いで、当初から誰もが予想できるオチをダラダラ無駄なカットを積み重ねて描く監督にいつからなってしまったのだろう?広く一般に理解できる様に丁寧に描いたというなら馬鹿にしすぎている。
 今回は「ウォーターボーイズ」程矢口的ギャグシーンが盛り込まれておらず、せいぜいスカートがズリ落ちたのを目撃した中学生が堤防を転げ落ち、カットが変わると何事もなかった様に走り去るギャグや、猪の件の擬似静止画だけで、これらが大いに笑えただけに、もっと盛り込んでも良かったと思う。
 ガ−ルズの面々も上野樹里以外は描写が薄く、もう少し盛り込めたと思うのだが。  又、竹中直人は好きだから世間で言われている程不必要とも思わないのだが、せっかく谷啓が出ているのだから、谷啓に教授される展開にすべきだったと思う。
 「オトコがシンクロ」というようなイロモノ的要素が本作にはないので、作劇の方法論をもう一捻りするべきではなかったか。矢口に和田誠的感性が備わっていれば、ジャズ演奏シーンが映えるのにと惜しまれる。本当に演奏しているのか?とやたらと言われるのは撮り方が悪いからで、そんなところでカット割るなという箇所がかなりあった。
 「ジョルスン物語」や「青春デンデケデケデケ」を踏まえてプロットを展開すれば青春映画の佳作としてかなりのものになったと思う。

(結末を含んだ内容になります)
 ラストが演奏が終わったと同時にエンドとなるのは、「ウォーターボーイズ」とも同様だが、あちらはそれで映画的に正しいのだが、本作の場合はケツに余韻的なシーンにギャグを絡ませたものを用意すべきだったと思う。
 楽しめる作品なので、より大きな要求を抱かざるをえなかったが、「ウォーターボーイズ」より後退しているからには、次回作は正念場になると思う。