映画 吉田喜重 変貌の倫理「情炎」「女のみづうみ」

molmot2004-09-25

1)「情炎」 (ポレポレ東中野) ☆☆☆★ 

1967年 日本 現代映画社 モノクロ シネマスコープ 97分 
監督/吉田喜重  出演/岡田茉莉子 木村功 高橋悦史 しめぎしがこ

 やや対応に困る作品で、観念性が突出してしまい、一度観ただけで、この作品の真価が理解できたとは思えず、DVD化後に再見したいので、以下とりあえずの印象である。(つづく)

2)「女のみづうみ」 (ポレポレ東中野) ☆☆☆★★ 

1966年 日本 現代映画社 モノクロ シネマスコープ 98分 
監督/吉田喜重  出演/岡田茉莉子 露口茂 芦田伸介 夏圭子

 現代映画社と松竹の提携時代の4作「女のみづうみ」「情炎」「炎と女」「樹氷のよろめき」は、松竹時代とATG時代の中間期に当り、これまで観る機会が全くなかった為に、吉田喜重の重要な転換期が不明だった。「女のみづうみ」は「水で書かれた物語」に続く作品で、松竹と現代映画社の提携第一作で、順不同に観ているせいもあるが、「情炎」とはミニマムな関係であり、既に観た「炎と女」とも通じるものがある。一度観ただけでは、後に記憶が混同するのは確実だ。
 個人的好みで言うと、既に観ている三作の中では「炎と女」に次いで良く出来ている。開巻の高く掲げられた手のショットから、これは「手」の映画かと思う間もなく、電話BOXでの露口茂の人差し指を硝子に当てて話すショットや、駅での岡田茉莉子の硝子越しの手の動きが素晴らしいのだが、後半の海岸でのピンク映画監督が掲げる白手袋の手を最後に「手」が主体的に物語に係わる事はなかった。
 「情炎」に比べてベースに据えられた骨格が明解で、ニャンニャン写真流出による悲劇という枠組みの中で、多層的メロドラマが展開される。
 殊にラスト近くの廃船を用いたシークエンスは圧倒的に素晴らしい。直ぐに同様に廃船を舞台にした若松孝二の「秘花」を想起したが、シチュエーションの酷似もさることながら、どう廃船を撮れば良いか、どう人物を動かし、どう配置し、廃船の中でどう性愛シーンを見せるか、という見本が全て示されており、若松が本作を丹念に見返せば、あのような凡作になることはなかったと思う。
 サングラスの岡田茉莉子がバストショットで電話しながらその場を一回転する魅惑的ショットやロングショットの魅力に満ちたショットの数々に魅了される。
 しかし、この作品を一度観たきりで語りきる度量は自分にはなく、DVD化の際には体系的に全作を観て行く上で丹念に見返したい作品だ。