映画 「血は渇いている」

molmot2004-09-24

1)吉田喜重 変貌の倫理「血は渇いている」 (ポレポレ東中野) ☆☆☆★★★ 

1960年 日本 松竹 モノクロ シネマスコープ 87分 
監督/吉田喜重  出演/佐田啓二 三上真一郎 芳村真理 岩崎加根子

 噂には聞いていたが、これは再評価が望まれる初期吉田喜重の秀作であり、この作品が撮れるからこそ、彼は今尚傑作「鏡の女たち」を撮っているのだと思わせる。
 この作品は大島渚の「日本の夜と霧」と併映され、例の上映打ち切り後も本作のみは別作品と共に続映されたらしいが、早々に打ち切られたそうで、以後、名画坐にかかる機会も少なく、吉田喜重自身、自作の中で最も観られていない作品と語っている。この普遍的な秀作を今に到るもソフト化せずに放置している松竹は、故意に吉田喜重の評価を低めようとしていると言われても仕方なく、篠田正浩、大島の新作には全額出資したくせに吉田喜重にはしないという段階で、松竹の無知、無理解は明らかで、篠田、大島の最新作よりも吉田喜重の「鏡の女たち」が突出しているという事実をも直視するつもりはないのであろう。
 鏡に向かって思いつめた顔で向き合う佐田啓二の顔から始まる本作は、鏡というモチーフが登場することに興奮しつつ、衆前で自殺を計り、身をもって首切りを反対したことから、幸いにも軽症で済んだ主人公が生命保険会社のCMキャラクターとして祭り上げられ、マスコミの過剰な渦に巻き込まれ現在のヒーローにされていまうというハナシで、これは全く現在でも中井貴一でリメイクできる。
 主人公が拳銃を当てた巨大な看板が掲げられるが、巨大な顔が街に貼りだされる異物感が素晴らしい。この異物感が味わえるのは、この作品から44年後に同じく松竹で製作された「CASSHERN」での大滝秀治の看板だ。
 定型に沿って、大衆の支持を得ていると思い込んだ主人公が自滅していくわけだが、ラストの落下する看板には息を飲んだ。映画史に残るシークエンスだろう。
 下手ながら芳村真理が可愛かった。