映画 「ソウ」

molmot2004-11-17

1)「ソウ」〔SAW〕 (シネマサンシャイン) ☆☆☆★★

2004年 アメリカ カラー ビスタ 103分 
監督/ジェームズ・ワン  出演/ダニー・グローヴァー モニカ・ポッター マイケル・エマーソン ケン・リョン

 予告から受ける印象が「CUBE」的なものを抱かせるものだったので、さして期待していなかった。「CUBE」「マルコヴィッチの穴」「マグノリア」辺りの作品となると目の色を変えて絶賛する方は身近にも多いが、実に青臭い。1シチュエーション1アイディアに頼り切って、肝心の演出が拙い作品を、ちょっと奇抜なパッケージにしただけで騙されてはイケナイ。スパイク・ジョーンズなら「アダプテーション」こそが映画であり、ポール・トーマス・アンダーソンなら「パンチドランク・ラブ」こそが映画であると実際に観れば一目瞭然なのだが、何故目くらましの方へ向かうのか。
 それは兎も角「ソウ」である。この作品はアメリカ公開にあたってレイティングの影響で再編集しており、日本公開版もそれに準じている。どの程度カットされているのか知らないが、これでは本作を真に観た事にはならない。『カットは些細な問題で作品に影響は無い』と平然と口にした知人は、さして考えがあって口にしたとも思えなかったが、それはレイティングという名の表現規制を容認する発言であり、「愛のコリーダ」にボカシがかかっていても、さして作品に影響は無いと言う鈍感さに通ずるものがあり、空恐ろしくなった。
 観る前は山下敦弘の「腐る女」や北村龍平の「ALIVE」的な密室劇を想像していたのだが、回想から同時間軸上でのサスペンスも入れ込んだプログラムピクチャーの佳作に仕上がっていた。一夕のエンターテインメントに相応しい面白さだった。しかし、大騒ぎするようなレヴェルの作品ではなく、2本立てで観るに丁度良いB級映画の味わい深さのある作品だし、このレヴェルの作品ならばもっとある。
 演出は粗く、カメラも作品の狙いを助けているとは思えないが、監禁されている地下室のみで全編押し切らなかったのは正解で、この演出から判断して同室だけでは90分と持たすことはできなかったろう。
 開巻のいきなり監禁状態という不条理さはロマン・ポランスキー的で非常に良いし、その緊張感が解けそうになると回想を用いながら事件の全体像を見せていく演出の逃げ方が上手い。
 ただし、ラストのどんでん返しは奇を狙い過ぎで、意外性を優先したあまり演出がそれを納得させるだけのものを提出できていない。
 カメラマンの男が自宅に侵入者を発見した時のフラッシュの使用は「裏窓」、医師の妻が引出しから鋏を出してナニするのは「ダイヤルMを廻せ!」からの引用で、ヒッチコックへの下手なオマージュではあるが、悪くない。
 ただのB級サスペンスを化けさせた宣伝の勝利である。