映画 「雲のむこう、約束の場所」

molmot2004-11-24

1)「雲のむこう、約束の場所」 (シネマライズ) ☆☆☆★

2004年 日本 カラー ビスタ コミックス・ウェーブ 91分 
監督/新海誠  声の出演/吉岡秀隆 萩原聖人 南里侑香 石塚運昇

 「ほしのこえ」は、女子高生と携帯メールをSFの世界観で描き、情景描写とモノローグのみで押したことが成功の要因で、いかに人物が描けなかろうが、背景の書き込みで成立させてしまった短編ならではのもので、ハナシはどうでも良い扱いになっている。自主アニメとしては非常に良く出来ていたが、果たして長編になるとどうか。実写の自主映画の監督がプロのスタッフに囲まれて商業作品を撮ったら、途端に自身の世界観が壊れ凡庸な作品に仕上がることはよくあるハナシである。本作の場合は、新海誠ありきで進んだ企画なのでそのようなことはなく、実際新海誠らしさに溢れている。
 相変わらず感心するのは、ハナシの根幹を埋めるシチュエーションの巧さで、日本が北海道と南北に分断されていて、北海道には天まで延びる巨大な塔があるという設定は素晴らしい。
 前半の中学時代の描写は「Love Letter」や「リリィシュシュのすべて」からの影響が濃厚に感じられるが、気恥ずかしくなるくらいベタな描写を丹念に描いてあるが、これはもうやった者勝ちと言うか、誰もやらないことを敢えてやると受けるという種類の、まあ今年の流行を嗅覚良く取り入れているというもので、これが良いとは一度も思わなかったが、感心はした。
 相変わらず情景描写は魅力的で、どこまでも高い空に塔が建っている大ロングは感動的だ。しかし、前半の中学時代の描写で残念なのは、編集が悪いということで、カット尻が短すぎる。アクションの繋がりが全部ズレていて、本来前半で見せておかねばならないショットの数々が編集のせいで有効に作用していない。フェードの多用も問題で、短いフェードを使いすぎるので、全体がブツ切れの印象になってしまう。庵野秀明への敬愛は自他共に認めるように作品全体に露骨に出ているが、市川崑仕込みの(直接指導があったという意味ではなくビデオで繰り返し研究したことも含む)編集能力を有する庵野と、その模倣的な新海では自ずと有するものの違いが出てしまうのだが、塔が根幹にあるから常時塔を見せる必要があるとは言え、パンアップが多すぎるのも良くはなく編集で何とかするべきだったのではないか。
 「最終兵器彼女」や「新世紀エヴァンゲリオン Air/まごころを君に」他の影響を言い出せばキリがなく、それをいけしゃーしゃーとやってのけることが、この作品の興行価値になるのだが、せめて塔というものを主人公が主体的に捉える展開になってくれればと思ったが、当然の様にヒロインを覚醒させて、お得意のモノローグをかぶせまくって誤魔化して放り出したまま終わってしまった。新海誠の作品で、あの饒舌なモノローグを批判しても仕方ないが、既に画と科白で十分過ぎる程饒舌に語っているのに、モノローグを乗せるのも悪くはないが、いくらなんでも多過ぎて下品だ。
 嫌いな作品ではなく、むしろ良くできている、少なくとも観客が求めるものに忠実に応えているとは思うが、新海誠は今回も一人で数役を兼ねているが、やはり原案程度にしておいて、脚本は共同なり別人が書くことで、より能力を発揮できると思う。