映画の噂 「観ったかぶり」

 知り合いのライターの方なので、とやかく言うのは気が引ける部分もあるが、自己を晒して興味深い問題提起をされている。コチラ
 自己のサイトで紹介する映画を『あたかも見たことがあるように書いて、今まで読者をだましてきた』と告白している。まあこれは薄々気付いていたことで、時折往年の役者紹介の一文にフィルムが現存しな作品や、ネガのみで上映プリントが無いから長らく上映もソフト化もされていない作品といった、観れるわけのない作品が平気で解説とも自己の感想ともつかぬ文体の中に幾つか紛れ込んでいたからで、これは当然資料を基にして書いているだけで観ていないとわかった。
 この方の場合は個人サイトでありながら、商業サイト的雰囲気を出すことを意図されているので、匿名的視点に立った解説的ページも多く、某映画サイトの如き途中で寝た作品のレビューをしたるする非常識さとは全く異なる。
 実際に観ることができない作品に対して資料を参照するのは仕方がない。しかし、やはりそれをさも観たかのような書きぶりで書くのは問題だ。本人も危惧しているように、『ちゃんとした情報を参考にして記事を書いているつもり』と言うが、その『ちゃんとした情報』とは何なのか、というハナシにもなる。
 ハスミンだったか「映画読本 成瀬巳喜男」で当時の批評を参照して上映プリントが現存しない作品にも係わらず、解説に不出来な作品と書かれていることに怒っていたが、確かに戦前の「雪崩」等、リアルタイムで評判の悪かった作品を実際に日本映画専門チャンネルで観る機会を得て観てみると、素晴らしい作品だったりする。同時代の批評などハナから間違えているという心構えで作品と対峙しなければ、名作と呼ばれている愚作を無闇に信奉し、発見されるべき秀作が埋もれたままの事態になってしまう好例で、『ちゃんとした資料』が一つの作品を生かしも殺しもする。
 個人的感想を記すサイトなら兎も角、この方は体系的な映画サイトを作られているので、こういった問題に対して今後も直面するだろうが、それへの方針が書かれていないのは残念だが、こういった問題を自己批判して出してくるのが凄い。「SPA!」で不定期に映画紹介の連載もしている方なのに、これまでの信用の損失も含めた自己の不利益を省みずに問題提起する姿勢には感服する。
 この方だけのハナシではなく、普段目にする映画をめぐる記事に、観もせずに書かれているものが紛れ込んでいると思うとゾッとする。(日米同時公開が恒常化してから、観ていないヒトの書く解説というのは増えた。と言うよりも未完成で観られないし、その場合は基本的に観れていないと断りが書いてあるが。それよりも具体的に善し悪しに関連する箇所まで観ていない輩が入り込んでいたとしたら恐ろしい)