読了 「ローレライ、浮上」

9)「ローレライ、浮上」福井晴敏樋口真嗣 (講談社) ☆☆☆★ 

ローレライ、浮上
 原作と映画化を同時進行させた本作固有の特徴を対談形式で振り返ったもので、製作過程の面白さは伝わる。
 それよりも興味深かったのは、40歳前後の二人のイデオロギー的な面が強調されないように編集されているとは言え、ある程度伝わってくることで、殊に樋口が企画段階でメールした文面が掲載されているが、やたらと「自身が持てない日本人」というフレーズが多用されていて、ようは戦争に負けたから自信を失ったんだという、なかなかの大東亜戦争肯定論者具合が面白かった。で、『日本人』が誇りに思える映画が、あの程度の作品なのかと。又、『終戦』という言葉が日本人の戦争観が反映されていてイデオロギー的に好きじゃないと樋口は書いていたが、ようは負けたから嫌というだけのもので、そのあたりと「CASSHRN」などの日本が勝っていたとするもう一つの未来みたいな世界観の作品との関係も興味深い。
 個人的には民族や国や血液型や出自で物事を判断するのは嫌いだが、伊丹十三が自身の作品を日本人論として成立しているかを常に確認するというのは、わかる。しかし、高度成長前後に生まれた監督達が、目も当てられない幼稚な戦争観で、日本人論をやろうとするのは、観ていても苦痛でしかない。樋口真嗣には次回作で是非、自信に満ちた日本人が南京を陥落する痛快戦争映画を撮ってもらいたい。これは嫌味でも何でもなく、「ローレライ」の最大の欠点は、戦意高揚感を観客に与えないことで、「大日本帝国」や「プライド」にしても、前者は巧妙な反戦映画だったし、後者は腰が引けていてプロパガンダにすらなりえなかった。しかし、実際近いうちに、そういった内容の戦争映画が平気で製作されるだろうと思う。