映画 「真夜中の弥次さん喜多さん」

molmot2005-04-22

69)「真夜中の弥次さん喜多さん」 (ユナイテッドシネマとしまえん) ☆☆☆

2005年 日本 カラー ヴィスタ 124分 
監督/宮藤官九郎    脚本/宮藤官九郎    出演/長瀬智也 中村七之助 小池栄子 阿部サダヲ 柄本佑

 
 この作品はなかなか書き辛いもので、だから指示語を多用して不明慮なものにしたい。具体性を持たせるには何度か観直さなければならない。
 宮藤官九郎の熱心なファンではないが、まあ、TV、映画共それなりに観ている。舞台は2本ほどのみなので、わかったようなことは言えない。
 劇映画での脚本に関しては、「アイデン&ティティ」など完全に失敗しており、テンションの高い青春譚以外での宮藤官九郎に期待しうるかどうか、かなり疑問を持たせる出来だった。
 原作は読んでいないのだが、初監督作品である本作は、相当難易度の高いことをやっていて、それが完全に成功していたかと言えば、前半に関しては不発もかなり混じっているが、それも含めて意図的な装飾過剰なのだから、とやかく言う方が非難される。開巻から旅に出るまでのリズムが悪いとか、緩急が弛緩しきっているから流れに乗りにくいとかあるのだが、やってることは「鴛鴦歌合戦」や「天晴れ一番手柄 青春銭形平次」、後半は「田園に死す」や清順的様相をも含まれてくるので、特に目新しさは感じない。
 瞠目させられるのが後半で、以下ネタバレするが、喜多八が弥次郎兵衛を殺し、死者と旅していたという誠に、しりあがり寿らしい世界観が素晴らしい。死者が全てアノヒトという、とんでもない反則ワザを出してきて驚愕させられるが、しりあがりが他の諸作でも繰り返し描いてきた、あの世とこの世の不確かな境、という映像化が困難な雰囲気をある種納得させるやり方で映像化できているのが凄い。
 伊勢丹屋上の書き割りだとか、気付くと皆年を取っているといった空間的な歪みの世界が良い。
 出演者では、長瀬智也が事務所の社長が寛大になったのか(ココは1996年版「御法度」で工藤静香の夫に出演交渉があったが断っている)と思わせる演技という意味で良かった。中村七之助は、もう少し受けの芝居に余裕があると良かったのにと惜しまれる。
 特筆すべきは無敵状態の阿部サダヲで、今回は「蒲田行進曲」における風間杜夫をパロっていて終始笑わせられた。鍋を囲むシーンもやっているのが良い。更に阿部の腹心を演じるのが、初演版「蒲田行進曲」でヤスを演じた柄本明の長男、柄本佑なのだから、その多重構造には感心する。車のハコ積め乗りは流石に無かった。
 麻生久美子は、相変わらずな使われ方だが、完全に魅了されたので仕方ない。
 意図的な騒乱を、から騒ぎとして空虚感に包ませる本作は、興味深く、成功している箇所もあるが、全体としてはその意図された歪さが、意図を超えた歪さとなっている箇所が出てしまっていたのではないかと思う。