書籍 「わが闘争 不良青年は世界を目指す」

8)「わが闘争 不良青年は世界を目指す」角川春樹  (イースト・プレス) 

わが闘争―不良青年は世界を目指す
 待ちに待った角川春樹の自伝が出た。タイトルの「わが闘争」で、まず笑わせてくれる。小学生の頃、何で角川文庫は、ヒトラーの「わが闘争」を文庫化して夏フェアで平台展開するの?と思ったのを思い出す。
 表紙が凄い。「天と地と」で印象的だった、キリヤ版キャシャーンみたいな上杉謙信の鎧を、あろうことか角川春樹が新宿副都心バックに着ているのである。この段階で、1500円払う価値がある。
 角川春樹の著作が面白いのは、普段の春樹の言動がそのまま文章化されているからで、ここまでわかりやすいヒトも珍しい。
 「試写室の椅子」という春樹の映画評を収めた、これもまたかなり突っ込みどころ満載の本があるのだが(無価値らしく古本屋で100円〜500円で入手可能だ)、冒頭の書き出しが凄い。出してくるのが面倒なので記憶で書くが、『千葉真一に移された風邪は、かなり悪性のものだった。』というようなものだった。これ、サニーからしたら、かなり気悪い文である。
 これが、収監を経て壊れ気味な春樹(日記を読めば壊れっぷりがよくわかる)が出した自伝となると、もう中谷彰宏の本どころの騒ぎではなく、全編が壊れている。注目すべき箇所が多すぎて追いつかないので、目次で気になる箇所を一部抜粋してみる。『おれの前に敵はいない』『「おれは神である」−神仏は自分の中に存在する』『はじめてのUFO体験』『その後のUFO体験』『ハワイで宇宙人と交信した』『おれは歩く神社である』『この星に遊びに来た』『大学時代に全学連相手に暴れる』『会社の危機と離婚の慰謝料の支払いが重なる』『苦しい時期にネバー・ギブアップ』『女と金は追いかければ逃げていく』『刑務所をを出てから、以前よりも女性にもてるようになった』『おれは誰のものにもなれない』等々。重ねて断っておくが、これらは本文中の一文ではなく、目次の各タイトルである。このタイトルの下、本文が続いている。しかし、自分は神だの、敵はいないと豪語し、宇宙人も呼べるんだ、と。そこまで言いながら金に苦労し、女好きは止められないとオチまでつけているあたりは流石で、これだけ面白いヒトは貴重だ。
 角川歴彦との軋轢も書かれており、興味深い。中でも、歴彦への批判として『おれの敷いたレールを踏襲しているにすぎない』というのは、正論で、「戦国自衛隊」やらリメイクしか発想できない現・角川映画は、ただの資産再利用で泡銭を稼ごうとしているに過ぎない。