映画(TV/VIDEO/LD/DVD)「悪霊島」

22)「悪霊島」 (DVD) ☆☆☆★★ 

1981年 日本 角川春樹事務所 カラー ビスタ 131分  
監督/篠田正浩    脚本/清水邦夫    出演/鹿賀丈史  岩下志麻  古尾谷雅人  岸本加世子
悪霊島 [DVD]
 DVD発売と同時に購入しているのに観るのが今になるとは、相変わらず購入から観るまでの時間が長い。と言うのも、既にビデオ版で何度も観ているからだが、今になって後悔するのはレンタル店に置いてあったビデオ版「悪霊島」をダビングするなり万引きするなり、テープのコアを差し替えるなりしておけば良かったということだ。それと言うのも、このDVDの一部音声がオリジナル版とは異なっているからだが。
 1975年にATGで映画化された高林陽一の「本陣殺人事件」以前の金田一モノは、田中重雄の「毒蛇島奇譚 女王蜂」ぐらいしか観ていないが、それ以降は全て観ている。野村芳太郎の「八つ墓村」など大作然とした雰囲気など悪くないのだが、総体的に観て「本陣殺人事件」も「八つ墓村」も、斎藤光正の「悪魔が来りて笛を吹く」も、大林宣彦の「金田一耕助の冒険」も、そして篠田正浩の「悪霊島」も、結局は市川崑の「犬神家の一族」「悪魔の手毬唄」「獄門島」「女王蜂」「病院坂の首縊りの家」の5部作の足元にも及ばない。それだけ市川崑の5作が奇跡的な傑作揃いだったということだが、駄目だ駄目だと言いつつ、「本陣殺人事件」「八つ墓村」「悪霊島」は未だ観ることができる。
 ビデオ版では何度も観ていたが10年ぶりに再見した本作だが、印象は変わらない。篠田正浩の駄目さ加減が、撮影の宮川一夫によって救われていた、というだけのハナシである。宮川一夫にしたってベストな出来だとはとても言えた作品ではないが、それでも、島の空気、瀬戸内の海の匂いを映像化していたのは流石で(撮影は隠岐だが)、悔しいが瀬戸内の島の雰囲気は「獄門島」より出ている。
 原作自体、読み応えはあるものの、さほど面白いものではない−、ま、映画化には不向きなのである。だから、清水邦夫篠田正浩が高度成長と古い因習と間で起こる事件を描こうと必死になっても所詮、原作がそういった要請に耐えられる作りになっていないから、空転する。「鳥」の露骨な引用や、石橋蓮司の女装や岩下志麻のオナニーシーンや、伊丹十三のオーバーな芝居を観て爆笑するぐらいしかない。
 何かと話題のビートルズについてだが、本作には「レット・イット・ビー」「ゲット・バック」が使用されている。当時でもかなりの使用料がかかったらしく、流石角川春樹だと言うところだが、開巻の1980年12月8日に古尾谷雅人ジョン・レノンの死を知らされて「レット・イット・ビー」がインストで流れて回想に入るという構成自体、オリジナル音源版を観ている時から違和感があった。つまりは藤子・F・不二男が死んだと報じて「怪物くん」を流すようなもので、レノン=マッカートニーとは言え、「レット・イット・ビー」はポールの曲だ。ヴォーカルだってポールだし。続いて流れる「ゲット・バック」も同様なのでガッカリくる。
 とは言え、個人的には開巻の「レット・イット・ビー」の入り方とそこに被る古尾谷雅人ぶっきらぼうなモノローグが好きだったので、このパートはオリジナル通り残っていて良かった。問題はラストのヴォーカル込み「レット・イット・ビー」で、DVD用の差し替えは完全に失敗している。こんなものなら、インストゥルメンタルで入れておけば良いものを。
 秀作でも傑作でもない、むしろ失敗作、凡作の側の本作が音の差し替えを経てDVD化されたこと自体は良い事ではあるのだが。