映画 「現代性犯罪絶叫篇 理由なき暴行」「性輪廻 死にたい女」「引き裂かれたブルーフィルム」

「17歳の風景」公開記念 若松孝二 レトロスペクティブ 2005
 若松孝二レトロスペクティブ二日目。本日上映される作品中「新宿マッド」と「処女ゲバゲバ」は既に何度も観ているのでパス。ビデオも出ているし。「性輪廻 死にたい女」も昨年観る機会はあったが、劇場ではなかったので上映環境が悪く、再見したかった。「現代性犯罪絶叫篇 理由なき暴行」は、まったくの初見。
 で、ポレポレでは朝2回「母のいる場所」を上映している。観ないでとやかく言うのは最低であるから一生観ない類の映画とか、どーせ、ここぞと臭いリアクションをアップで拾うんだろう、紺野美沙子だしな、などと言ってはイケナイので言わないが、ま、若松を待つヒトは階段で待っていると。で、今日は上のカフェで「母のいる場所」の監督と原作者のトークイベントがあるとかで、観客の大半が整理番号順に呼ばれて階段を昇っていくのだが、ジジババばかりなので、もたつくもたつく。御蔭で「現代性犯罪絶叫篇 理由なき暴行」の上映が五分押したが、それが腹に据えかねると言うほど短気ではないで良いのだが、面白かったのは老人ホームのハナシだか何だかの映画が終わって、ジジババが未だ全員退出しきっていないうちに、若松待ちの人々を入れ始めたので、ジジババの横で「『現代性犯罪絶叫篇 理由なき暴行』お待ちの方〜」などと声が飛び交い、ジジババが不思議そうにしていた。   
 「理由なき暴行」が終わり、続いて「性輪廻 死にたい女」の開場待ちをしていたら、未だ上でトークイベントやってらしく、オバハンが関連物のチラシを貰いに来た。自分の分を貰って帰って行ったと思ったら、直ぐ戻ってきて他にも貰っていないヒトも居る筈だから、積んであるチラシを全部寄越せと言っている。その姿を何とはなしに眺めながら、ポレポレのスタッフは前に積んであったチラシを全部オバハンに渡した。ここでオバハンは身を乗り出し、奥に置いてある同チラシの山に目をつけ、「それも全部。無駄でしょ。早く頂戴」と捲くし立て、スタッフにこのチラシは明日以降の上映で使うので、と言われるや、足早に立ち去る姿を眺めながら、こんなオバハンが執心している「母のいる場所」は絶対観ないだろうという予感が。このオバハンは「現代性犯罪絶叫篇 理由なき暴行」を観て社会を見つめ直せ。

117)「現代性犯罪絶叫篇 理由なき暴行」(ポレポレ東中野) ☆☆☆★

1969年 日本 若松プロダクション パートカラー シネスコ 75分 
監督/若松孝二     脚本/出口出(坂口俊正)     出演/村岡博 坂口俊正 城一也 東城瑛 浅香なおみ

 昨日の「乾いた肌」はレア作品なのに、さほど客が多くなかったが、この回は7割ぐらいは埋まっていた。流石にビデオ未発売で、60年代末期の若松プロの代表作の一本だけのことはある。宮台真司とかが事あるごとに推して来たせいもあるだろうが。柳下毅一郎氏の姿も見受けられた。 
 若松ファンの都立大生だった福間健二が脚本・主演も兼ねた「現代性犯罪暗黒篇 通り魔の告白」に続く現代性犯罪シリーズ第二弾ということになるのだろうが、本作の詳細については知らない。「俺は手を汚す」にも、本作については語られていない。恐らく「通り魔の告白」同様、学生に脚本を書かせ、出演もさせたのだろうと、脚本と出演のクレジットを見て想像する。
 前半が傑作だ。無為に過ごす10代後半の同郷の男3人が、6畳に同居しながら悶々と過ごすのだが、突出したシークエンスが幾つもある。『小田急に乗って網走へ行こう』と宮台真司が何度も語っていたが、正に小田急に乗るシークエンスが突出して素晴らしい。手持ちで正面から並んで座る三人を捉えているだけだし、科白は硬いし、又役者も素人なので下手だ。しかし、素晴らしい。殊に、三人が降りなければならない駅を過ぎて、網走へ行こうと言う高揚感が、何故か伝わってくる。その後の冬の江ノ島の海岸を歩く三人をロングで捉えたショットが良い。
 若松作品は、節操無くと言うか、かなり大胆に身近な作品から影響を受けたりする。未見だが、「性の放浪」は「人間蒸発」だと言うし、「性家族」は「儀式」といった明快なものから、大島が「日本春歌考」を撮れば「狂走情死考」を撮るという具合に。そういう意味で、本作は「日本春歌考」や「帰ってきたヨッパライ」の青年像や、先述の江ノ島ロングショットに「日本春歌考」の校庭を歩く主人公たちを捉えた俯瞰ロングの関連性を思いつくのは、やや強引か。
 ひたすらやりたいとしか考えていない青年達の、6畳童貞ムービーの佳作だが、後半の破綻がもう少し意図として演出の計算が立っていれば良かったのだが。ヌードモデルについて行って、家に入れてもらい、交代にやるシーンのオチの科白が聞き取り辛く、判別し難かったので、あの女が単なるやりまんか、精神破綻者か明確にならなかったが、ここは同じく童貞ムービーの傑作「日本春歌考」の『妄想』という表現が入った方が、童貞ムービーとしては良かったのではないか。ラストにかけての自殺も性急すぎるが、それはまあ良いとして、ラストのガイラが落とした拳銃を拾い、警官と銃撃戦になるシーンなど、絶対に警官嫌いの若松が、おまわりえをぶっ殺せと言ったに相違なく、無駄な蛇足に思えた。
 前半の傑作具合からすると後半が魅力に欠けるが、若松孝二の代表的な佳作には違いない。何故ソフト化されないのかと思うが、劇中に何度となく使用される「網走番外地」は無許諾使用だろうから難しいのだろう。それだけに、しっかり脳裏に焼き付けておかなければならない作品だ。

118)「性輪廻 死にたい女」〔タイトルクレジット:死にたい女〕 (ポレポレ東中野) ☆★★★

1970年 日本 パートカラー シネマスコープ 若松プロダクション 72分 
監督/若松孝二   脚本/出口出足立正生 )  出演/島絵梨子  矢島宏 島たけし 香取環

119)「引き裂かれたブルーフィルム」(シネマアートン下北沢) ☆☆☆

1964年 日本 朝倉プロダクション パートカラー シネスコ 72分 
監督/梅沢薫     脚本/日野洸(大和屋竺)     出演/桂奈美 津崎公平 野上正義 城浩 今泉洋