映画 「67歳の風景 若松孝二は何を見たのか」

molmot2005-09-02

154)「67歳の風景 若松孝二は何を見たのか」(ポレポレ東中野) ☆☆☆

2005年 日本 カラー スタンダード 49分  
監督/竹藤佳世

 若松孝ニの撮影現場が見られるということが最大の商品価値となる作品で、いくら拙い作りであろうと、その物珍しさで最後まで観ていられる。
 しかし、若松孝二という非常に魅力的な人物を被写体に選び、相当面白い素材が撮れていると完成した作品からも想像されるのに、それが十全たる見せ方がされているとは思えなかった。
 個人的不満箇所としては、開巻の手術シーンが早い繋ぎで見せているだけになってしまっている点で、この手術のシーンでは未だ竹藤佳世は登場しておらず、若松が自分の判断で自身の助監督達に手術中の姿を撮影させたものだ。『とめられるか!?この俺を』やイベントで語られたところによると、手術室へ向かう若松は、自身が車椅子に乗って廊下を進む姿を撮る助監督達に、後ろから撮れとか指示していたらしい。これが映像として残っているのかどうか不明だが、助監督が回したなら、こんな所でRECを切るわけがないのである筈だ。そういった正に今から手術室へ向かう間際でも撮り方を指示してしまう若松の姿とその後の生々しい手術のシーンがもっと必要だったと思う。竹藤佳世は自分で撮っていないからこういった事があったという程度の扱いにしかしなかったのかもしれないが、もっと図々しく取り込んでも良かったと思う。それに関連して言うなら、前掲書や「噂の真相」にも載った若松プロガサ入れ隠し撮りなども若松孝二という人物を見せる上で使えたと思うが。それらがあった上で、「17歳の風景」が成立していると思うから。
 撮影中の若松は、噂に聞く程ではなくすっかり丸くなった感があるが、別にNHKの「影武者」の黒澤ドキュメントじゃあるまいし、怒鳴っている所を観たいわけではない。突出して面白いのは、竹藤佳世にこう撮れとやたらと指示してしまう若松の姿で、本編撮影中の監督がメイキングの撮り方まで気にしてしまうという若松の姿に感動する。コノヒトは昔から一貫して若い奴が何かやってるのが好きなようだ。
 ただし、この作品で竹藤佳世は、そういった若松、そして若松プロ独特の撮影方式、また「17歳の風景」という作品そのものを、非常にわかりきった、つまらない言葉で纏めようとしてしまう。むしろ、自分にはわからないまま現場は進み、しかし隣では疾走し続ける若松の姿、というものをそのまま見せた方が良かった。
 ラストの全スタッフの顔をアップで捉えるシーンは印象的だし、ここだけを観れば、被写体の顔が皆魅力的になっているのだから、やはり良い。大島渚の「太陽の墓場」で横移動で顔をアップで捉えたシーンに匹敵する表情を得ているのだが、この力強い表情に匹敵するものが、そこに至るまでに描かれていたかどうか。又『顔』の映画として顔を捉えてきたか。凄いシーンだけに、それまでに竹藤佳世がこの顔達に見合うものが捉えられたかどうかで、作品のバランスが崩れてしまう。結果は崩れたと思う。
 撮影中の若松の姿が見られたということでは興味深かった。
 
 尚、上映後のトークショーで若松が語った新作は、以前から言っていた船戸与一の「海燕ホテル・ブルー」が一応準備は進んでいるようで、又今月10日からインするものとして、BS-i田山花袋の「布団」を佐野史郎でドラマ化するとのことである。以前シネマジャパネスクで谷崎の「痴人の愛」が田中陽三脚本、永瀬正敏主演で撮影寸前まで行きながら例のクーデターで中止になったこともあり、若松が映像化する名作文学も是非観たかっただけに楽しみだ。