映画 「ハードコア・デイズ」「勝利の日まで 藝能戰線版第二輯」「三十三間堂通し矢物語」

molmot2005-10-05

187)「ハードコア・デイズ」〔The Fluffer〕 (渋谷シネ・ラ・セット) ☆☆★★

2001年 アメリカ Wカラー ビスタ 94分
監督/リチャード・グラツァー ウォッシュ・ウエスト    脚本/ウォッシュ・ウエスト     出演/スコット・ガーニィ マイケル・クーニョ ロクサーヌ・ディ ロバート・ウォーデン

 「ブギーナイツ」とか「ラリー・フリント」といったポルノ業界の内幕モノは面白い。食や性といった人間の根源に係わる仕事には魅力的な人間が居て、ドラマが生まれる。そのことに意識的だった伊丹十三はやはり凄かったと思う。
 本作はゲイポルノ業界モノで、なるほどと感心するのは、シネ・ラ・セットの観客がこれまであまり経験したことのない層によって席が埋まり、何が怖いってやたらと上映が始まって暗転した途端に席を移る御方達がいるからで、何故か自分の隣にはヨボヨボのジジイが移ってきて、ジイさんが何故にシネ・ラ・セットで「ハードコア・デイズ」?という疑念は、上映が始まった途端に、うつらうつらと眠り始め、何度となく寄り掛かってきて、その度にハッと目を覚まし、ゴメンナサイね、と小声で言われることでより謎を増した。
 それは兎も角、だからというわけでは全く無いが(フィルム撮りと思われるのにDLP上映なのが残念だが)、映画としての魅力にはかなり欠ける。
 主人公がクラシック映画好きで借りてきた「市民ケーン」の中身が「洗濯屋ケーン」で(ウソ)、主演していた男優に惹かれて製作会社を訪れ、カメラマンとして雇用される。男優はバイで、撮影で立ちが悪いときに主人公にシゴかせると大きくなるという設定は良い。しかし、控え目な裏方が主人公なので派手さに欠け、構成が雑なのと、全体を見通した演出が施されていないので、各シークエンス限りのバラバラな印象を持ってしまう。
 主人公がバーで知り合った男にポルノ業界について、魅力的な人間がいっぱいいる、というようなことを言うが、ちっとも魅力的な描き方がされていなかった。
 全編に渡ってインサートされる主人公がゲイに目覚める幼少時のトラウマ描写も要領を得ない。ラストの逃避行でいよいよ映画らしくなってきたかと思いきや、雰囲気だけに終始し、何もなかった。
 題材が良いだけに残念な作品だ。

生誕百年特集 映画監督 成瀬巳喜男
188)「勝利の日まで 藝能戰線版第二輯」(東京国立近代美術館フィルムセンター) 断片のみ現存の為評点なし

1945年 日本 東宝 モノクロ スタンダード 15分 
監督/成瀬巳喜男    脚本/サトー・ハチロー    出演/徳川夢声 古川緑波 高峰秀子 横山エンタツ 花菱アチャコ
 
 フィルムセンターでしか観られないレア作品で「上海の月」が満員で観られなかったのが悔やんでも悔やみきれないが、平日ということもあって、「勝利の日まで」は観ることができた。それでも最終的には8割以上席が埋まっていたが。
 単なる戦意高揚映画だと思っていたのだが、実際に観てみると外地の兵隊向けに当時の人気者達が芸を披露する慰問映画だった。開巻から山田五十鈴が踊ったりと、ま、この手の御挨拶映画のようなものは戦前、戦中、戦後を通じてあったし、戦後も新東宝が泥臭い御挨拶映画を作っていた。テレビ以前の時代の代物である。
 いくら成瀬巳喜男とは言え、これはもうどうこう言うものではない、大体断片が頭15分しか残っていないような資料的価値しかない作品なのだから、と思いながら開巻の山田五十鈴の踊りを漫然と眺めていたら、カメラは引き始め、画面からも引き、なんと徳川夢声古川緑波高峰秀子が研究所のような建物内(デフォルメされたセット)のモニターからそれを見ていたということがわかる。ここで、軍艦マーチの替え歌を3人が唄うのも面白いが、更に中継先が変わり、船の甲板に立つエンタツアチャコとのやりとりとなる。「俺もお前も」が印象的だった成瀬作品でのエンタツアチャコが、思わぬところで観ることが出来たのが嬉しかったが、エンタツアチャコを見る度に彼らの系譜は、やすし・きよし、オール阪神・巨人中川家笑い飯と受け継がれていることに改めて思う。
 島に上陸したエンタツアチャコが待っていると、研究所の屋上から大砲が打ち出され、島に落ちる。爆発すると中から芸人が出てきて一曲唄うという趣向だが、何故かメチャ小さかったり、めちゃ大きかったりして、隣に立つエンタツアチャコとの対比が面白い。
 しかし、1945年製作で戦況は厳しい時期の筈だが、単なる芸人が芸をしているのを撮っていれば良いものを、研究所のセットだとか、慰問爆弾、特撮で巨大な人間や小さな人間(ま、遠近法でやってるだけだろうが。伊丹十三の「お葬式」の頭のCM撮影シーンでの巨大芸者を思い浮かべてもらえれば良い)を出してくるあたりが、東宝的な洗練を感じる。まあ、だからこそ戦意高揚映画を撮っても、普通の映画になってしまう監督主導の色合いが強い松竹と、結果的にかなりの効果を果たした東宝の違いが出てくるのだろうが。
 成瀬的なものは感じなかったが、むしろPCL時代よりも松竹蒲田時代の成瀬作品に通じる楽しさがあった。是非全編見てみたいものだ。

189)「三十三間堂通し矢物語」(東京国立近代美術館フィルムセンター) ☆☆☆★★

1945年 日本 東宝 モノクロ スタンダード 77分 
監督/成瀬巳喜男    脚本/小国英雄    出演/長谷川一夫 田中絹代 市川扇升 河野秋武

 「勝利の日まで」と同時上映されたものだが、こちらはテレビでもよく放送されているので珍しさはないが、やはりよくできた佳作だ。
 成瀬の時代劇を初めて観たのは「お国と五平」だが、公開当時の世評が芳しくなかったようだが十分面白かった。成瀬は時代劇の能力を有していると本作を観て改めて思ったものだ。