映画 「私をみつめて」

199)「私をみつめて」 (ポレポレ東中野) ☆☆☆★

2004年 日本 日本映画学校 カラー スタンダード 54分
監督/木村茂之    出演/河合由美子

 これは一筋縄ではいかない作品で、あまりにも被写体の持つ情報量の多さに、どの作品でもそうなのだろうが、100人居れば100通りの切り口で作品を作り、又観るであろうと、あたりまえのことながら思わせられる作品だった。
 情報量の多さは、開巻から延々続く被写体である彼女の紹介文の多さでも圧倒される。「スターウォーズ」の冒頭みたいと思ったが、正に彼女はカメラが入った時から様々な問題を抱えている。
 何の予備知識もなく観始めたので、彼女の家族のカメラへの無意識ぶりとか、彼女は何故被写体になったのだろう、14年間同じ家に居ながら父親と顔を合わせないとか可能なのか、などと常に色々思いながら観ていた(壁に張られた原一男の名前の載った新聞も気になった。後で彼女のサイト等を見ると大阪電気通信大学原一男 研究生と書いてあったので納得した)。
 父親と対面するという展開になるが、それは何を契機にしていたのか、やはりカメラの存在か、と思いながら彼女が自室を出て階段を降り、廊下を進み右へ曲がるのをカメラは後ろから捉えている。そしてジャージ姿の親父がちょこんと座っているのが映されるわけだが、この当然と言えば当然の父親との対面の拍子抜けするような呆気なさが印象に残った。この父親の物言いや言い回しは、もう関西のヤカマシイオヤジの典型なので、ムカムカしながら観ていたが、カメラはほとんど父親側へはパンせずに、彼女を中心に追っていく。
 画以外の場所で語られている箇所が多すぎるのが不満とか、撮影者側に彼女が性交渉してくるところや、男に会いに行って首を絞められて追い返されたと語るその決定的な場のせめて音だけでも聞きたかったとか、単純に見せ場と感じてしまう場が捉えられていないことが惜しいと思ってしまうが、この作品では彼女と撮影者側との個の対立となる様子を作品の主として捉えようとはしていない。個人的にはそっち方面に行った方が面白いと思うのだが、そうはしないという作品なようだ。
 細部に関しては挙げきれない程気になる箇所だらけで、それは情報量の多さに対しての手法や構成においての切り口の問題だから、じっくり再見した上でないと何とも言い難い。又、彼女自身への興味も非常に沸いた。
 この作品の魅力としては、やはり『顔』の映画として素晴らしい効果を上げていることで、自室に篭って太っている時期から体重が恐ろしく早く落ちていって変貌してく顔が印象的だ。しかし、この顔の変貌は単に体重が落ちたからではなく、彼女の精神状態を表情が直ぐに表していて、痩せて外に出て、といった行動に出た際にどんどん魅力的になり、殊にニューヨークでの彼女の顔は最も良かった。
 ラストにかけて、明らかに一線を越えた痩せ方による表情の変化が見て取れるところで終わるが、で、今はどうなんだとサイトを見にってしまう力を持った被写体であり、作品だったとは思う。