映画をめぐる雑記

吉田喜重 変貌の倫理再び

 来年1/28〈土〉〜2/14(金)迄、ポレポレ東中野で昨年開催された「吉田喜重 変貌の倫理」が再び同所でリヴァイヴァルされる。既にDVDも出ているので、ソフト化された作品ばかりなら個人的にはどうということもないのだが、それらに加えて前回直前に上映中止となってしまい、王貞治スパイ疑惑のぶり返しかと思わせた巨大なグローブソファも持っている王さんを描いた「BIG-1物語 王貞治」と、TVシリーズ「美の美」も上映される。又、DVD化に驚かせられた「エロス+虐殺 ロングバージョン」も上映される。
 ゲストには吉田喜重岡田茉莉子蓮實重彦青山真治斉藤綾子吉増剛造など。
 それにしても「BIG-1物語 王貞治」の上映は嬉しい。DVDBOXにも収録されずじまいで、権利関係でやはり難しいのかと思っていただけに。しかし、大島渚にもテレビでだが「巨人軍」というドキュメンタリーがあり(ナレーションは戸浦六宏)、しかも吉田も大島も大のジャイアンツ嫌いで、確か吉田は阪神好き(これも意外だが。あの静謐な吉田が閑静な住宅街の一角の豪邸で縞々のユニフォームを着て観戦しているかと思うと)、大島は今は知らないが昔は南海が好きだったような記憶があるが、ともあれ全く巨人に愛着が無い監督にやらせている、しかも別に生活の為に不遇時代に止む無くやった仕事といった風もない。吉田はまあ「戒厳令」で一度劇映画に終止符を打った後ではあるが、大島は「儀式」と「夏の妹」の間に製作している。そういった非常に先鋭化している時期の監督達にこういった作品を依頼していた時代というのは、やはり凄い。(女池充が「RED SHADOW」のメイキングを撮っているのも凄いが)
 もう当面は観ることが適わないと思っていただけに嬉しい。

「ゲルマニウムの夜」特設映画館上映

 荒戸源次郎事務所の新作が花村萬月原作の「ゲルマニウムの夜」だとは知っていたが、詳細は知らなかった。確かもうすぐ公開されるというオボロゲな認識しかなかったが、流石荒戸源次郎事務所、往年の移動テント方式で、今度は東京国立博物館の敷地内に『“ゲルマ”のためだけの映画館、 一角座を立ち上げ』たと言う。しかも公開が今度の土曜、12/17からだと言うのだからこちらの不明を恥じた。
 現在、シネコン、都内ではミニシアターラッシュではあるが、その一方で、ノーテンキに日本映画のバブルっぷりが高らかに言われてはいるが、その実、内容空疎、演出不在の商品として成立していない作品が大ヒットするという歪な状況を生んでおり、何より未だ公開が決まらない作品が100本とも200本ともあると言う。(どこかの雑誌が特集してどういった作品があるのか教えて欲しい)だから、これをここでやるのかというような事態、急に歌舞伎町で本来最も適した観客が来辛い場所で上映されたり、又は上映されていることすら周知されないようなことも多い。表面的には恰も映画が豊潤な環境にあるかのように見せかけられている現状への問題提起として、荒戸源次郎の試みは応援したい。
http://www.aratofilm.com/
 上記に作品並びに映画館・一角座の詳細が載っているが、自分ではその体験はないのだが、例の伝説のテント上映と同じ様なものかと思っていただけに、案外しっかりした映画館を東京国立博物館の敷地内に作ってしまうその試みに感心する。
 監督の大森立嗣は、以前から各作品で名前は見かけてはいたものの、はっきりと認識するに至らなかったが、最近よく名前が出る。父が麿赤兒、弟が大森南朋だが、「身も心も」を深作健太共々助監督を務めたり、阪本順治や、その他製作、美術などにも名を連ねているようだが、「新刑事まつり 一発大逆転」中の「よいこのでか」を監督しているが、本作が長編デビューとなる。
 「ゲルマニウムの夜」には次世代への継承の系譜が感じられる。脚本は浦沢義雄である。「オペレッタ狸御殿」でようやく師である大和屋竺から受け継いでしまった、鈴木清順の呪われた呪縛を前2作に比しても質の高さを顕著に示して作品化し(実際「オペレッタ狸御殿」は荒戸源次郎事務所製作で製作する予定だった由)、 アニメ脚本家としての才を一方に置きつつも劇映画への接近は、図らずも大和屋竺の作品における「荒野のダッチワイフ」や「毛の生えた拳銃」を例に出すまでも無い麿赤兒の存在が変転し、本作においてはその長男が監督するという事態に陥る。これを深作健太同様の視点で観る前から非難すべきことなのかどうか。今は未だ、脈々と近親交流が深まる大和屋竺の恐怖に耐えるのみだ。
 出演者が期待させる。新井浩文が主演というのが嬉しいが、他にも広田レオナ大森南朋、大楽源太、山本政志麿赤兒石橋蓮司佐藤慶と続く。観る前に予備知識は入れないのでわからないが、どうも山本政志石橋蓮司佐藤慶は同じ修道院に居るようで、こんなATG臭い修道院は嫌だなあと思うが、それにしても久々にニオイを感じさせるキャスティングで良い。ここに無名の新人が入るわけで、果たしてどういったものになるのか。
 前売り1700円と高いが、博物館観覧料も含まれているので良い。曇天気味の寒い日に上野まで足を延ばそうと思う。