映画 「玉割り人ゆき 西の廓夕月楼」

molmot2006-01-11

鳴呼!!! 七〇年代劇画イズムFOREVER
1)「玉割り人ゆき 西の廓夕月楼」(ラピュタ阿佐ヶ谷) ☆☆☆★★

1976年 日本 東映京都 カラー シネスコ 64分
監督/牧口雄二    脚本/田中陽造      出演/潤ますみ 坂口徹 中島葵 森崎由紀 川谷拓三

 一年の最後に観る映画や最初に観る映画というのは全く意識したことがなかったので、何が来ようがどーでも良かったのだが、他のヒトを見てみると、ゲンをかついで色々工夫しているヒトも居て面白かった。そういう視点に立てば本作は幸先の良いスタートと言うべき作品で、極上のプログラムピクチャーだった。例によって観る機会がなかった旧作は新作と同義なので、30年前の作品という思いはない。
 昨秋に同じくラピュタ阿佐ヶ谷の『鳴呼!! 七〇年代劇画イズムRETURNS』で初めて観た「玉割り人ゆき」は、遊郭&テロものをこよなく愛する者としては、田中陽造の素晴らしい脚本と牧口雄二の的確な演出に酔いしれ、大傑作だと思った。しかし、後で荒井晴彦の「争議あり」を読んだら、1975年度の「映画芸術」ベスト10でワーストに挙げている。田中陽造の弟子の荒井がワーストに挙げているので意外だった。
 「玉割り人ゆき 西の廓夕月楼」は、「玉割り人ゆき」に続く第二作。監督、脚本共に前作から引き続きの登板である。玉割り人ゆきが京都の島原から、金沢へ来たという以外は前作からのリンクはない。
 開巻の橋をローアングルで捉え、画面上手上に、ゆきの草履が手前に向かって来るショットからして乗せられる。牧口雄二は「戦後猟奇犯罪史」でもロケシーンが圧倒的に凄いが、それは本作でも同様で、更に『橋』という田中陽造度満点な道具が開巻から出てきたせいもあり、嬉しくなる。橋の下には画家が春画を持って猥褻な踊りに興じている。ここでの、橋の上と下の対比の鮮やかさが素晴らしい。ロングで、橋の下の画家と上のおゆきが立っているショットに魅せられる。
 続いて主人達を集めた広間で、ゆきが性技を施すのだが、ここで竹に縛られた女二人の性器に生卵が入れられ、万力で割れと御無体なことをゆきが言う。今ではそもそも卵を入れようという発想すら起きないが、映画における女性器と卵の系譜としては「愛のコリーダ」の卵を入れて踏ん張って出すシーンがチャーミングで良かったという記憶があるぐらいか。他には「タンポポ」の黒田福美と卵が上半身で描いてはいるが挿入しているも同然なエロさだった。で、本作では前作における、つゆだく旦那衆味見シーンと同様に万力で割った卵を旦那衆が検分するシーンが笑える。吸ったりする奴もいるから。
 今回の男は、ここでゆきにヤカラを入れてくる奴で、墓地で男が謡う謡曲に惹かれてゆきが引き寄せられて、直ぐに野外FACKとなる。外だけに牧口雄二も絶好調になるのだが、野外でやるための段取りが素晴らしい。蝶が巧みな小道具として使われ、アカラサマに針金が見えているのだが、様式美として違和感なく成立してしまっている。
 男は謡曲で才を見せ、東京で大成していたが、故郷に帰省した際に金沢の謡曲名人をからかい失策させ自害させてしまう‥と聞けば「歌行燈」の世界そのままだが、この辺りの本作も含めた原作との相関関係は無知なので知らない。大体「歌行燈」自体、自分は成瀬巳喜男の大傑作でしか知らないのだから。しかし、「歌行燈」の世界が入ってきたので、俄然身を乗り出して観たが、以降のその死んだ金沢の謡曲名人の娘がつきまとうといった描写に比重がかかるので、ゆき側が手薄になり、前作の様な感銘を受けることはなかった。飲み屋で、ゆきと画家と娘が並んで、娘の身の上話をするというのも図式的過ぎて良いとは思えなかった。又、男の妹の描写も入ってきて、更にそこから妹指示による謡曲名人の娘を軍人が集団レイプという中盤の大きな展開が入ってくるだけに、ゆきが疎外化しているように思える。レイプ後、ゆきが駆けつけるのだが、神社の境内で目隠ししたまま娘が三味線を弾くシーンの迫力たるや凄い。ここでも、ゆきは受けになってしまうので、前作のような立ち姿が映えるシーンを期待すると、やや異なってくる。
 終盤の結ばれるかに見えた男とゆきの元へ画家が来て、謡曲名人の娘がレイプ後、廓に出ていることを教える。男は娘を訪ねて金を渡すが拒否され、抱くことを望まれる。田中陽造の興味がやはり「歌行燈」側に向き過ぎていると感じるのは、このシークエンスこそが本来、田中陽造が最もやりたかったところであろうと思えてしまうからで、そこに今一歩感情を寄せることができないのは、娘の男への思いが科白で語られただけで、過去に一度抱かれたからこそ忘れることができない男への恨みと愛情、そして最後の展開へと至るまでの積み重ねが不足しているからではないかと思う。
 とは言え、牧口雄二の充実した演出を堪能でき、殊にラストに再び橋で画家との対話、そして蝶の舞いで締める素晴らしさなど、見応えは十分で、撮影所システムが機能する中でロングやアップが的確に決まっていく心地良さは近年の日本映画ではなかなか味わうことができないので、当たり前だった商品としての品質の維持ができている作品の素晴らしさを改めて感じた。
 それにしても、「玉割り人ゆき」「玉割り人ゆき 西の廓夕月楼」のDVD化を是非実現して欲しい。