映画 「ロード・オブ・ウォー」

molmot2006-01-20

6)「ロード・オブ・ウォー」〔LORD OF WAR〕(新宿アカデミー) ☆☆☆★★

2005年 アメリカ カラー シネスコ 122分 
監督/アンドリュー・ニコル    脚本/アンドリュー・ニコル    出演/ニコラス・ケイジ イーサン・ホーク ジャレッド・レト ブリジット・モイナハン イアン・ホルム

 アンドリュー・ニコルの作品を劇場で観るのは初めてだが、見応えのある佳作だった。
 開巻のニコラス・ケイジの画面に向かって語りかけるところから、弾丸主眼で工場から出荷されていく様子を1カットで見せたり(CGがあまり良くないのでノリ難い。しかし、その最後が少年の頭を貫通するのはかなり良い)と、作品のテイストはここで飲み込め、以降全篇に渡るハゲのナレーションで、武器商人としてのし上がっていく彼の半生が描かれるわけだが、一瞬危惧したのは、別に珍しい手法でも何でもないが、全篇ナレで押しているので、絵解きに終始したり、ヴィジュアルで引っ張りすぎたり、下品なぐらい画が優先されたら嫌だなと思っていたが、アンドリュー・ニコルはそこらの加減は熟知しているようで、前半でやや気になったぐらいで、問題なかった。
 何より良かったのが、最も大嫌いな家族を媒介にした贖罪の方向に向かわなかったことで、テッド・デミの「ブロウ」も面白かったが、ラストがあれでは、どうでも良い正論をデカイ声で聞かされているようなもので不満だった。その点本作は後半で家族との不協和音が出てくるので、またもありきたりなオチに向かうのかと思いきや、そこを越えたミもフタも無い真実を語らせているのが良かった。とは言え、そこは演じるのがハゲだから、浮かれたり気難しい顔だけではなく、深い喪失感をいつもの困った顔に更に刻ませているので、感動的だった。
 安易なヒューマニズムや過剰さに流されず、ひたすらビジネスに徹して、いかに武器をうまく誤魔化して商売相手に売り渡すかに徹したビジネスマンとして主人公が捉えられているのが魅力で、この銃弾、弾丸で誰がどう死ぬかといった問題は、作品の底辺にしっかり刻みつつも、主人公がそこに捕らわれて苦悩するといったバカらしい描写が皆無なのが良い。あくまで表層上は冷徹な武器商人という表情を最後まで崩していない。
 出演者では、イーサン・ホーク ジャレッド・レトが素晴らしく、そしてニコラス・ケイジがやはり良い。このヒトがブラッカイマーの映画に出ても違和感しか感じないのだが、こういった作品だと、やはり合う。「アダプテーション」以降、往年のニコラス・ケイジの良さが復調気味で嬉しい。