映画 「ドラえもん のび太の恐竜2006」

molmot2006-03-11

47)「ドラえもん のび太の恐竜2006」(ユナイテッドシネマとしまえん) ☆☆☆★★

2006年 日本 カラー ビスタ  106分
監督/渡辺歩  総監督/楠葉宏三  脚本/渡辺歩 楠葉宏三    声の出演/水田わさび 大原めぐみ かかずゆみ 木村昂 関智一 神木隆之介 船越英一郎 劇団ひとり


 劇場版大長編ドラえもんシリーズは、3歳の時に初めて映画館で観た作品が「ドラえもん のび太の海底鬼岩城」だったこともあり、愛着は大きい。その後は「ドラえもん のび太の日本誕生」迄は欠かさずつきあい、黄金期の秀作である前述した「のび太の海底鬼岩城」も含めた、「ドラえもん のび太の魔界大冒険」「ドラえもん のび太の宇宙小戦争」「ドラえもん のび太と鉄人兵団」をリアルタイムで体感できたのは幸せだったと思っている。「ドラえもん のび太と竜の騎士」あたりからマンネリが目立ち始め、面白くはあるが初期3作の再構成に過ぎないと思い始め、続く「ドラえもん のび太のパラレル西遊記」に至っては原作者の病気により映画オリジナルで製作された為、極端に質が落ちた。「ドラえもん のび太の日本誕生」は原作がしっかりしているので再び質は上がったが、ラストのタイムパトロールの扱いや敵キャラなど「のび太の恐竜」と同じでマンネリの感は拭えず、潮時だと判断してこれが劇場で観た最後となった。
 その後、藤子・F・不二雄が原作を書いている「ドラえもん のび太のねじ巻都市冒険記」迄は一応ビデオ、テレビ放送等で観るようにしていたが、作者の死後に短篇原作をベースに長編化している諸作は全く触手がの伸びず、一切観ていない。劇場版が1年の中断を経て、声優が一新されるという経過を辿った際、劇場版ドラえもんの新作はリメイクに向かうのではないかと思った。と言うのも、劇場版初期に関しては、作画がかなり拙く、露骨にスケジュールに追われた感があった。第1作となる「のび太の恐竜」にしても、2作目の「のび太の宇宙開拓史」にしても同様だが特に後者ではクライマックスの決闘シーンを原作から改変して取り留めないものにしてしまっていた。もっとも原作のままやるとロバート・アルドリッチの「ヴェラクルス」の決闘シーンをそのままパクっていたので、意図的に外したのかもしれないが。
 劇場版の完成度が安定したのは監督が芝山努になった「のび太の海底鬼岩城」からだが、幼少時に劇場で観て、以降原作を何度も何度も読み返して補完していると、後年再見した際に軽く失望することがある。7年程前に今は亡き南街会館でドラえもんオールナイトがあり、そこで全作予告篇上映や「のび太の日本誕生」「のび太の恐竜」「のび太の宇宙開拓史」「のび太の魔界大冒険」「のび太の結婚初夜」等の上映があった。この時久々に再見した「のび太の魔界大冒険」など、やはり良いのだがクライマックスがスケジュールの影響であろう、かなり駆け足になっていた。
 因みにこの上映会の司会は何故か平野秀明と竹内義和で、当時丁度トゥナイトが活動休止したこともあり、竹内がサイキックのイベントではなく一見さんも多いと言うのに唐突に『三枝師匠は、しずかちゃんがお好き』発言をして劇場にナパーム弾を投下した。補足しておくと「二人が喋ってる。」で映画方面にも知られるようになったトゥナイトだが、しずかは、何かから逃げるように活動を止めてアメリカへ留学した。メンバメイ・ココが17年程前に『朝まで紳助&ダウンタウン』で三枝へのシュートな発言をして(記憶では非常階段とサニーの関係を生放送で暴露だったか)紳助が消化器持って来い鼻折ったると激怒したのと合わせてサニーの吉本ちょいカキ録の一つとして覚えておいて良い。
 「ドラえもん のび太の恐竜2006」は、近年やたらと増えているリメイク作品と同一視すべきではないと思っている。と言うのも前述した様にオリジナルの「のび太の恐竜」の完成度はかなり低く、原作が素晴らしいだけにリメイクされるべき作品だからで、例えば「キング・コング」を現代の技術でリメイクするといったものとは根本的に異なる。むしろハードルが低い望まれたリメイクと言って良い。
 基本的に幼児が来る恐れのあるアニメは極力シネコンのレイトや深夜に観るようにしている。最近の親は付き添いの役を果たしておらず、又劇場に入る前に当然やっているであろう静かに観るように言い聞かせているのかどうかすら疑わしい程で、走り回ったり奇声を発し続ける気が違っているらしい子供も居るので、落ち着いて観れるものではない。中学生頃は、例えば「ゴジラvsモスラ」を観に行った時など一気に観客が低年齢化したせいもあり、科白が殆ど聞き取れないくらい場内が五月蝿く、近場のガキには注意したり、しつこく走り回るガキにスッと足を出してコケさせて静かにさせたり保護者と口論になったりしていたが、最近は大人になったので、よほどのことがない限りそういった行動にはでなくなった。休日の昼間に観るのだからとハナから寛容になっている。但し、少なくとも自分は3歳の時に初めて映画館という場所に連れてこられて「のび太の海底鬼岩城」を観た時は、食い入るように画面を黙って見つめていたので、走り回るガキは子供なんだからと納得はし難く、本心で言えば許し難い。因みにあの時自発的にパンフを購入しなければ、現在に至るパンフ地獄は回避できたのだと思うと3歳の自分の判断を呪う。
 で、肝心の作品についてだが、リアルタイムで劇場で観ていた頃の楽しさに匹敵する上出来具合で、長年監督を続けた芝山努降板後のリニューアルドラえもんとして、かなり大胆なリニューアルが行われており成功している。オリジナル版「ドラえもん のび太の恐竜」よりも上出来なのは言うまでもない。
 声優が変わったからどうこうと批判するのは、作品を表層的にしか捉えられていない証拠で、作品の内容以前の場所で批判しているので対処しようがない。確かに現在の三代目声優陣に変わった際に最初に受ける違和感は、当然生まれてからずっと聞かされていた二代目声優陣に慣れ親しんだ者にとっては当然あるが、「ルパン三世 風魔一族の陰謀」と同じで、始めこそ違和感があれども5分もたてば古川登志夫のルパンに慣れる。個人的にはクリカンよりプロの声優で、それこそ古川登志夫でやる方が良いと思っているし、ルパンもそろそろリニューアルの時期だと思っている。というわけで、技量の問題こそあれ、声優への違和感は既に無く問題なく観ていた。又、神木隆之介劇団ひとりも違和感なくやっていた。
 作画がやりたい放題に近く感じる程なので、ドラえもんという枠組みでここまでやってしまうことの驚きや違和感も感じつつ、楽しめる。リニューアル後に増えたギャグの過剰さも相変わらずで、劇場内の子供が喜ぶ姿を目にして、良い形でリメイクされていると感じた。
 構成に関しては、元々原作自体がオリジナルでは中篇(敵キャラは登場せず、ピー助を帰して、ドラえもんに鼻でスパゲッティ食べる機械を出してくれと泣きつく所でオチとなる)で、それを長編用に伸ばして前半に敵キャラの存在を振っておいて後半に一同でピー助を日本に連れ帰るという展開となっている。従って原作の段階から既に前半の、のび太が恐竜を育てるというエピソードが重くなり過ぎているという欠点を持っているので、それは映画版においても同様だった。又、原作において最も重要且つロードムービーである本作において不可欠な、食料調達をして缶詰を作ったり、作業を終えて寝る為の場所として地面に刺せば巨大化して球体の住居が出来上がるという、個人的に最も気に入っているシークエンスがBGMバックであっさりと見せたのみなのは、唯一にして最大の欠点だと思う。大長編ドラえもんの魅力の一つは、食と住をしっかり描写していたことにあると思う。「のび太の海底鬼岩城」の巨大テント。プランクトンで作られた食べ物意でバーベキューしたり、海の上に絨毯を敷いて食べるといって描写、「のび太の魔界大冒険」で草原を横切る前に北風のテーブルかけで各々好きなものを食べる、「のび太と鉄人兵団」では無人の街でコンビニから調達した食料でバーベキューする(本作と「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」の比較はされなければならない)、といったディテイルの豊かさが素晴らしかっただけに、その点が残念でならなかった。しかし、後で聞けば作画が遅れて200カット程の欠番が出たらしいので、そこが生活のディテイルに該当していたのかもしれない、とは思う。
 原作に忠実な映画化ではあるので、観ていて非常に楽しめたが、目立った改変点はクライマックス部分である。ネタバレになるが、捉えられた連中を救出するという一連のシークエンスは、原作よりも派手に拡大化してあるが、その分見せ切れておらず、散漫な印象となる。ピー助がテレポートして基地内に来るなど、何故そんなことが可能なのかわからなかった。後でタイムパトロールによる誘導と同行したヒトに教えられたが、分かり辛かった。ラストも、原作通りタイムパトロールに依存するのではなく、自分たちで、当初の目標設定通り、日本列島ができるであろう土地の、東京の、のび太の家の、のび太の部屋の、のび太の机に位置する場所までタイムマシンを持っていくというという形に変更していて、これ自体は悪いとは思わないが、その分タイムパトロールとの兼ね合いが難しく、辻褄合わせができていない。これならタイムパトロールは不要だ。
 ラストも原作通りだが、廊下で手を振ってエンドロールに入るので、ここで終わらせるんだと思っていたら、エンドロール内で原作のコマを使ってエピローグ部分をやっていたのは良かった。
 全体としては、もはや動脈硬化状態に陥っていると思われた劇場版ドラえもんでここまで瑞々しい佳作が現在において生まれたことを喜びたい。次回作は再びオリジナルになるとのことだが、1年毎にリメイクという路線も悪くないと思う。「のび太の宇宙開拓史」「のび太の大魔境」あたりは是非リメイクして欲しい。以降の全盛期の作品については、複雑な思いもあるが、このスタッフで観たいという思いもなくはない。