映画 「映画監督って何だ!」「送還日記」「ブラックキス」

molmot2006-03-24

63)「映画監督って何だ!」(新文芸座) ☆☆

2006年 日本 協同組合 日本映画監督協会 カラー スタンダード  90分
監督/伊藤俊也    脚本/伊藤俊也    出演/小泉今日子 佐野史郎 石川真希 原田芳雄 小栗康平 阪本順治 若松孝二 小水一男 大島渚


 只券があったのでそれを利用して観たわけだが、実に意義のある使い方をしたなあ、と。料金払って観たらどう思ったことやら。
 監督協会70周年を記念して製作された作品だが、監督協会が映画制作を行うのはいつ以来だろうか。自分の知識では、60年代前半に協会への収益目的でVP的に製作された大島渚が監督した「私はベレット」しか知らないが、確か大島の書ではその後数本別の監督で同様の趣旨で製作されたが、うまくいかず取りやめになったとのことだった。
 幾つか疑問がある。まづ、何で監督が伊藤俊也なのかと。さそりシリーズや、「誘拐報道」は好きなので悪く言う気はないにしても、近年は作品間のスパンが開きすぎて、笠原和夫言うところの『たまにマウンドに上がって剛速球投げようとしても外れますわな』という状況で、「花園の迷宮」も「風の又三郎 ガラスのマント」も「プライド 運命の瞬間」も、プロの手腕を発揮できていたとは言い難い、スカスカの凡作だった。本来、「プライド 運命の瞬間」のヒットにより引き続き東映で「金融腐蝕列島・呪縛」を監督する予定で脚本も既に上がっていたようだが、プロデューサーサイドが若手監督の起用をしたいと言い出した為降板。結果的には後任に決まっていた三池崇史もクランクイン直前に降板した為、原田眞人にお鉢が回って完成した。
 と言うわけで、この作品は日本映画監督協会云々という以前に伊藤俊也7年振りの劇映画ということになる。協会員に企画を募集して本作に決まったということらしいが、映画の著作権は監督にありというテーマに沿った作りなので、東映東京撮影所で名を馳せた伊藤俊也に合う題材ではある。
 開巻間もなくの日の丸に伊藤俊也らしさを感じたぐらいで、後は至ってユルユルのベタな作りのものだった。博物館や美術館で流れている紹介ビデオみたいな作りで、ま、広く一般に向けて映画監督の役割や著作権について子供にもわかるように作ったということならそれで良いのだろうからとやかく言う筋合いのものではないが、こんな作りなら、それこそ「驚き桃の木20世紀」出身の緒方明が監督した方が遥かに再現シーンにしても低予算で効果的にしかも映画的に仕上げてくれたのではないだろうか。
 産声を挙げたというナレーションの後に本当に赤ちゃんをインサートする馬鹿馬鹿しさは、シベ超でボロ雑巾扱いされてという科白の後にボロ雑巾がインサートされるのと同様の馬鹿らしさだ。
 日本映画史並びに日本映画監督協会の歩み、そして著作権について語るならば、既に大島渚が「日本映画の百年」という作品を製作しているのだから、そこに短いながらも凝縮して描かれているので、むしろあの作品こそが格好の宣材になると思うが。
 とは言え、文士劇の映画監督版だと思って、のんびり観ていれば楽しめる。監督の能力に応じて魅力が著しく増減する小泉今日子が全く魅力がなかったとしてもだ。最も、ある程度は日本映画に興味がないと監督の顔が判らないのだが。そういう意味では、泥の河で、どついたるねんと言われながらケツ掘られている状態の小栗康平阪本順治のカラミとか、そこに日本赤軍を引き連れて乗り込んでくる若松孝二とか、ラビットセックスしながら答弁する小水一男とか、女学生ゲリラをバックに鎖陰をいじりながら殊勝に議員を演じる足立正生とか、次々と監督達が顔を出して来るので、そこに興味を繋いで観るしかない。しかし、素人演技なんだから伊藤俊也がもう少し何とかしてくれれば良いのに、作品としてもどうと言うものになっていないので、後半は流石に退屈した。
 興味を引いたのは、五所平之助の「煙突の見える場所」の1シーンを、小国英雄の脚本を基に、鈴木清順林海象、本木克英の三人が夫々の演出で違いを見せるというコーナーで、期せずして鈴木清順の最新作になるという豪華さに嬉しくなるが、神代辰巳みたいにチューブ姿の清順に一抹の不安を覚えつつ、相変わらずやりたい放題で、一発で清順だとわかる画になっている。しかし、では脚本家の立場はどうなるのか?脚本に書いてもいないオチや人物が登場してしまう演出の著作権を守る以前に脚本家の著作権はどうなるのだ?
 ラストは藤沢の大島渚宅で、往年からすれば痛々しい姿ながら懸命に筆を動かし『映画監督は映画の著作権者である 大島渚』と大書きする様には涙が溢れた。大島の60年代の著作でも、何度も映画監督の著作権について主張する姿を読んだり、国会へ証人として出て行く姿を読んでいたので、現在も尚その主張を力強く書く姿を目にしたら、泣かずにはいられなかった。「映画監督って何だ!」は、大島渚の姿を記録したことで、名を残す作品になった。
 最後にもう一つの疑問を。何故ビデオ(DVX-100B)で撮影したのだろうか。勿論予算、合成等見当はつくが、せめて16mmとかで撮って欲しかった。

64)「送還日記」[送還](シネアミューズ) ☆☆☆☆

2003年 韓国 カラー ビスタ  148分
演出/キム・ドンウォン    出演/チョ・チャンソン キム・ソッキョン

65)「ブラックキス」[BLACK KISS](Q-AXシネマ) ☆☆☆★

2004年 日本 アップリンク カラー ビスタ  133分
監督/手塚眞    脚本/手塚眞 森吉治予 田中浩司    出演/橋本麗香 川村カオリ 松岡俊介 安藤政信