訃報 今村昌平監督死去

molmot2006-05-30

 もう危ないという噂を耳にしたところだったので、やはりという思いは強いが、残念だ。最も好きな監督の一人だったし、つい2週間程前に「今村昌平日活作品全集1」DVD- BOXを格安で見つけて嬉々として購入し、イマヘイDVDコンプリートを決めたところだったので。
 世代的にリアルタイムで今村昌平を意識したのは「黒い雨」からだったが、その後長らく映画が撮れない時期が続いたものの、「うなぎ」から再び濃密な重喜劇を連発してくれたのは嬉しかった。リアルタイムで今村昌平の新作に接する機会を与えてくれた上、無類に面白かったのだから新作を観に行くのが楽しみだった。「うなぎ」「カンゾー先生」「赤い橋の下のぬるい水」、そして短篇「おとなしい日本人」と、80年代の諸作より好きだ。
 個人的ベストは数々の傑作があるので迷うがやはり「『エロ事師たち』より 人類学入門」で、初見時には呆気にとられ、そしてあまりの傑作具合に興奮した。
 残念なのは念願の「新宿桜幻想」が遂に実現しないままに終わってしまったことで、遊郭や娼婦を描くのに、世界的に見て、現在今村昌平以外に誰が濃密に描けるというのだろうか。一度はキャストも決まり、井の頭公園の桜の実景撮りからインしていながら資金難で中止になってしまった「新宿桜幻想」が、「赤い橋の下のぬるい水」に続く新作として再開が予定されながらまたも6億円の予算が集まらず頓挫した時は、ひたすら悲しかった。
 遺作となった「セプテンバー11」用といいつつ今村映画のキャストを勢揃いさせて好き勝手な映画にしてしまった傑作「おとなしい日本人」を経て、30分程度の井伏鱒二原作の短篇を企画していると聞いていたので、それならせめて短篇を数本観ることができたら、と思っていたがそれも実現しなかった。
 笑や、女やセックスを描けて、人間を映画に定着させることができる偉大な監督だった。
 冥福を祈りたい。享年79歳。