森田芳光の「椿三十郎」と崔洋一の「用心棒」

 少し前から噂には聞いていたが、「時代劇マガジン」最新号で、角川春樹インタビューがあり、そこで以前リメイク権を購入した「用心棒」と「椿三十郎」について具体的動きを語っていた。
時代劇マガジン Vol.14 (タツミムック)
 それによると、

椿三十郎」 2008年正月東宝系公開 監督/森田芳光
「用心棒」 2009年正月東宝系公開 監督/崔洋一

 だそうで、ヒットすれば5本続編が作る権利があるとかで、全国各地を舞台にしながらシリーズ化し、その内一本は角川春樹が監督する予定という恐ろしい発言もあった。「椿三十郎」はオリジナル脚本をそのまま使用し、「用心棒」はよりハードボイルドに改変するらしい。
 角川春樹は割と脳内妄想を平気で口にするので、本当に監督はこの二人なのか、又東宝が本当に配給を引き受けたのか正式発表があるまで俄かに信じ難い部分もあるのだが、ま「王立宇宙軍2」をやるんですよと、ガイナにハナシすらしていない段階で喋ってしまう堀江氏よりは行動に移すヒトではあるので、とりあえずそのまま鵜呑みにしたい。
 監督については、ある種納得できる。往年の角川映画で起用された際は未だ若手だった二人がベテランとなった現在、近年の評価を考えても妥当な選択ではないか。実際この二人の時代劇は観てみたいし、誰が撮っても何か言われるに決まっている巨大すぎる作品を受ける監督としても、ここあたりだろうと。
 意外だったのは、先行して「椿三十郎」が製作されることだが、それにも増して配給が東宝ということだ。現在の角川映画東宝がメインという印象があるが、ここ10年の春樹が離れた後の流れを見れば、東映が配給を受けていた時期から松竹、東宝と変わって行っているが、そこにどういった理由があるのかは知らないものの、東映が「男たちの大和」を製作した際には、もう現行角川映画とは係わらないのかと思った。又、角川春樹を相手にしてくれるのは東映だけなのかとも思った。しかし、「蒼き狼〜地果て海尽きるまで〜」は松竹なのでこれも意外に思っていたら、遂に「椿三十郎」「用心棒」は東宝の正月映画だと言う。これが本当なら来年は現行角川映画の「犬神家の一族」、翌年は角川春樹製作の「椿三十郎」、翌々年は「用心棒」という映画史的には歪な流れということになる。一般的には角川映画角川春樹事務所製作作品の区別はつかないだろう。ただでされ、旧大映作品までが角川映画と呼ばれることで映画史的混乱が生じているのだから。
 角川春樹東宝と言えば、「犬神家の一族」でのプロデューサー市川喜一を製作費横領で告訴に始まり、「天と地と」での東宝系公開予定が急遽東映系に変更になるに至るまで、良い関係とは思えず、今回も大丈夫だろうかという思いはある。
 又、以前のハナシでは撮影は東映京都撮影所を使うということだったが、東宝が配給となることでどうなのだろうか。もっとも、「人間の証明」で撮影、配給、宣伝が東宝東映、日活が交錯することでブロックブッキングを破戒し、「蒲田行進曲」で松竹作品ながら東映京撮での撮影を可能にさせた角川春樹だけに問題はないのだろう。
 角川春樹を全肯定する気は更々無いにしても、映画に関しては正論が多い。「男たちの大和」で大和をセットで作ったのも、ブルーバックでCG使って本物と見分けがつかないぐらいならそうするが、そうではないからセットを作るとか、東映京都撮影所閉鎖の噂に撮影所は潰してはイケナイ、だから黒澤リメイクは京撮で撮る、新人に大作は任せられないとか、一々正しい。
 因みに「蒼き狼〜地果て海尽きるまで〜」は当初、佐藤純弥に監督を依頼していたが興味がわかない上に海外撮影の大作だから体力に自信がないと辞退してきたので、その場で澤井信一郎に電話したところ、即やると答えたそうだ。そりゃ、モー娘の小品しか監督できないここ数年の不遇さを考えれば乗るわな、と。それに監督の選択として正しい。大作に縁のなかった澤井信一郎だが、東宝笠原和夫脚本で「真珠湾」をやろうとしていたぐらいだから、その方面に志向がないわけはないようだ。気になっていた「蒼き狼〜地果て海尽きるまで〜」の脚本は、ドラマパートは中島丈博でアクションパートは丸山昇一とのこと。明確に担当を分けた場合の危惧感がないわけではないが、近年の大作であっても監督の連れみたいな脚本家に単独で書かせることの弊害にウンザリしていたので、プロデューサーさえしっかりしていれば乱れない筈なので期待したい。それにしても中島丈博丸山昇一という大物二人を平気で連れてくるところが角川春樹的。
 現行角川映画の保守的路線と対照的と思いつつ角川春樹もリメイク路線を取り入れ始めたが、それがどうなるのか期待したい。