書籍 「RESPECT田中徳三―プログラム・ピクチャーの黄金期を駆け抜けた映画監督 シネ・ヌーヴォ映画叢書」「日本発 映画ゼロ世代―新しいJムーヴィーの読み方 Cine Lesson (別冊)」「宮崎駿全書」

4)「RESPECT田中徳三―プログラム・ピクチャーの黄金期を駆け抜けた映画監督    シネ・ヌーヴォ映画叢書」田中徳三   (シネヌーヴォ)
5)「日本発 映画ゼロ世代―新しいJムーヴィーの読み方    Cine Lesson (別冊)」森直人  (フィルムアート社)
6)「宮崎駿全書」叶精二   (フィルムアート社)

RESPECT田中徳三―プログラム・ピクチャーの黄金期を駆け抜けた映画監督 (シネ・ヌーヴォ映画叢書) 日本発 映画ゼロ世代―新しいJムーヴィーの読み方 (Cine Lesson (別冊)) 宮崎駿全書
 不要になった映画本を唐突に送り付けて来る友人から貰った三冊。事前にどの本要るとか一切尋ねてくることはなく、Wる可能性を常に持ちつつ今回貰ったのは、幸い全て未購入の上、丁度買おうとしていた本ばかりだったので、かなり良かった。
 4)シネ・ヌーヴォが『シネ・ヌーヴォ映画叢書』を出し始めたと聞いて即座に景山理氏の『映画新聞』の質の高さを思い出したが、予想通り第一弾となる「RESPECT田中徳三―プログラム・ピクチャーの黄金期を駆け抜けた映画監督」はそう分厚くはないが、充実した内容であることは、未だ軽く目を通しただけながら十分伺える。シネ・ヌーヴォでは、田中徳三のレトロスペクティヴを組んだようだし、挟み込まれていた上映チラシを見て羨ましくなる。シネ・ヌーヴォは1997年の春にオープンしたから、丁度自分が大阪で暮らし始めたのと一致するので、オープンの時から通っていたことになる思い入れ深い映画館だ。「憂鬱な楽園」「パーフェクト・サークル」「ブエノスアイレス」「A」「A2」「日本鬼子 リーベンクイズ」、大島渚特集上映、足立正生全作上映など学生の頃の充実した映画体験を形成してくれた劇場で、殊に忘れ難いのは、1999年夏の成瀬巳喜男レトロスペクティヴで、同時期に課題制作で短篇映画を撮っていたので、とても成瀬には行けそうになかったのだが、スタッフルームが九条のヌーヴォの極く近所にあった御蔭で、しかも撮影が夜半を主にしていたので、早朝解散した後は皆が仮眠する中、自分はヌーヴォで1日中成瀬を観て、最終回が終わると再び撮影に向かうというような無茶なことを連日やっていたが、忘れ難い思い出だ。シネ・ヌーヴォがオープンしてから来年で10年となる筈だが、市民出資型映画館なので経営の危機が何度となくあったと聞くが、10周年目前に、シネ・ヌーヴォ映画叢書が出版されたことは心強いし、かつての『映画新聞』の熱気が甦ったような思いに駆られる。ミニシアターの急増とあっという間の相次ぐ閉館に、大阪の非映画文化地域ぶりを腹立てることが多かったが、シネ・ヌーヴォPLANET studyo plus one第七藝術劇場は、大阪が東京の映画館に勝る誇るべき場だと思う。
 本書は一般の書店にも置いてあるが、東京ではあまり話題になっていないようなので敢えて書いておくと、主となる田中徳三への全作インタビューが貴重なのは言うまでもないが、蓮實重彦山根貞男、上野昴志、原一男らが寄稿しているので、田中徳三への興味がなくとも、寄稿者の文面を目にするだけでも良いから手にとられることを薦める。
 5)フィルムアート社のこのシリーズは毎回立ち読みや友人宅などでパラパラと読んでおしまいということが多いのは、こちらが期待しているような濃厚さに欠けるせいか。フィルムアート社の70年代から80年代に出たヒッチコックジョン・フォード、小津やATG、ロマンポルノなどの濃厚な書物で映画を教えられたので、もっともっとと期待してしまうが、あれは容易く映画を観られない時代の偏執的な濃密さに満ちた本だったのかなと思う。
 6)近く購入予定だったので助かった。何せ濃密な情報量で、これぞフィルムアート社から出るに相応しい。「風の谷のナウシカ」の脚本第一稿を伊藤和典が宮崎と共同脚本で書いていたなんて知らなかったし、「魔女の宅急便」が当初別の若手監督と脚本家で進められていた際、脚本は一色伸幸だったことも初めて知った。そんな情報だけではなく、多くの宮崎論が監督とクレジットされてからの宮崎作品しか論じないので、東映在籍時の原画担当作にも濃厚に宮崎色がついていることの考察がスッパリ抜けていることの不満点などがあったわけだが、本書も基本的に劇場作品で監督クレジット作品を扱っているものの、「ルパン三世 カリオストロの城」が宮崎が原画を担当した「長靴をはいた猫」のクライマックスと酷似していることも指摘してあり、安心して読める。