映画(TV/VIDEO/LD/DVD)「明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史」

39)「明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史」(DVD) ☆☆☆★★★

1969年 日本 東映京都 パートカラー スコープ 92分 
監督/石井輝男   脚本/掛札昌裕 野波静雄 石井輝男     出演/吉田輝雄 中村律子 上田吉二郎 小池朝雄 阿部定  
明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史 [DVD]
 東洋閣事件、阿部定事件、象徴切り事件、小平義雄強姦殺人事件、高橋お伝と、正に明治から昭和にかけての女が主となる猟奇事件を集めた作品で、長らく観たかった。と言っても、石井輝男阿部定本人が出てるという、畏れ多い事実への畏怖の念から観たいという思いを抱いていたというのが正直なところだったが、見世物性と魅力溢れる実録犯罪映画を兼ね備えた素晴らしい秀作だった。
 大島渚が「悦楽」「白昼の通り魔」「絞死刑」「愛のコリーダ」と4作もかけてやってきたことを、石井輝男は1本で十分拮抗するだけのモノを作ってしまったんだなと思った。
 開巻の吉田輝雄が妻の遺体を真っ二つにメスで切り裂くのを俯瞰で捉えたショットからして美しいが、『東洋閣事件』での浴場の岩場の影からヌッと現れる藤木孝をロングで撮ってしまえる石井輝男の凄さ。正しく観客と正対する場からフイに男が出てくる恐ろしさに、斧を振るって惨殺するのだから恐怖とはこれでしかない。終盤の障子越しに血糊をブチ撒き、炎が広がる素晴らしさも忘れ難い。
 『阿部定事件』は、映画史的に阿部定事件初の映像化ということで合っているのだろうか?1975年の「実録・阿部定」、1976年の「愛のコリーダ」、1998年の「SADA」と続くが、それ以前に未知のピンク映画でやっちゃっているような気がしてしまう。と言うのも、若松孝二も60年代に足立正生の脚本で阿部定をやろうとしていたらしく、既に脚本も上がっていたという。何でもラストに吉蔵のモノを切り取ると、途端に現在に移り、モノを持ったまま定が国立競技場を一周するというものだったそうで、そのあたりの発想の飛ばし方が足立正生だな、と思ったりする。それもあって若松は「愛のコリーダ」のプロデュースを引き受けたということだ。
 ところで、阿部定事件は、「SADA」以外は本作も含めて秀作、傑作になっているし、自分もかなり好きだが、そんなに何度も映画化するほど面白いものだろうか。殆ど忠臣蔵化していると言うか、阿部定調書を基にしているから当然なのだが、パトロンの先生の扱いも含めて同じにしかならないので、製作順では最も最初に位置する本作を観ながら、田中登大島渚との違いを楽しみつつ、才ある監督がそんなに殺到しなくてもと思いながら観ていた。
 観る前は、充実した描写で見せた田中登や、ハードコアを売り物にしつつ繊細な描写に息を飲んだ大島渚に比して、石井輝男阿部定本人を出してくる厚かましさこそが売りで後は当時の東映らしい描写で見せる程度かと思っていたら、頭とケツに阿部定は出て来るものの、狂言回し的役割を控えめに演じさせているだけで、本編は丁寧な演出で見せていた。裁判中の回想という手法だったので短く見せきっていたし、切るという行為よりも流浪していく定の姿が印象的で、ケツに再び登場する定が去り行く姿に至るまで、流れていく女として描かれていたのが良かった。
 『象徴切り事件』は、ドギツイ事件を次々に見せる中で息抜き用にうまくはめ込んであり、由利徹大泉滉という御馴染みの顔が笑わせてくれる。
 『小平義雄強姦殺人事件』は、小池朝雄に尽きる。「白昼の通り魔」で佐藤慶は無表情で通したが、小池朝雄は舌なめずりしたりして明快すぎるのだが、このエピソードのみがモノクロの中で、狂気を感じさせる瞬間が最後まで途切れなかった。終盤の死刑執行シーンに「絞死刑」を思う。
 『高橋お伝』は、これまでに比べるとそう突出した箇所はなかったが、土方巽の首切りに満足する。