映画 「男だったら」「山猫リシュカ」「初恋」

molmot2006-07-17

ドイツ映画祭2006有楽町朝日ホール
<ルビッチ再発見>
163)「男だったら」〔Ich möchte kein Mann sein〕 (有楽町朝日ホール) ☆☆☆★★★

1920年 ドイツ モノクロ スタンダード 41分(20コマ/秒)
監督/エルンスト・ルビッチ    脚本/    出演/

164)「山猫リシュカ」〔Die Bergkatze〕 (有楽町朝日ホール) ☆☆☆★★★

1921年 ドイツ モノクロ スタンダード 90分(20コマ/秒)
監督/エルンスト・ルビッチ    脚本/エルンスト・ルビッチ    出演/ポーラ・ネグリ パウル・ハイゲマン ヘルマン・ティーミッヒ 

165)「初恋」 (シネカノン有楽町) ☆☆☆

2006年 日本 カラー ビスタ 114分
監督/塙幸成    脚本/塙幸成 市川はるみ 鴨川哲郎    出演/宮崎あおい 小出恵介 宮崎将 小嶺麗奈 柄本佑 青木崇高 松浦祐也 藤村俊二

 正直なところ、観に行く気がなかなか起きなかった。宮崎あおいで、小嶺麗奈柄本佑も出ている以上、観なければイケナイのだが、義務感で映画を観に行く程アホらしいことはない。
 その理由は幾つかあるが、一つはタイトル。古今東西「初恋」と題された劇映画は何本あるのか。「初恋 地獄篇」は除くにしても、「はつ恋」なども入れると軽く10本近くなる。近年もエリック・コットの「初恋」だってあったし、内容は想起できないし、今更こんなタイトルを、という思いもあった。しかし、それよりもむしろ問題は予告にあるのだと思い当たった。と言っても自分が観ていたのは特報に当たるものと言うべきか、例の宮崎あおいが白バイ警官の後姿でメット外して髪がバサ〜っとなるやつ。サイト見れば、本編映像がその続きに入っている予告篇を観ることができるが、自分は予告篇は見ていなかった。
 人並みに高校生頃から三億円事件に興味を持って、さほど多くは出ていない関連本読んだりしていたので、三億円事件をモチーフにした作品であれば当然興味がある。しかし、『三億円事件犯人は女子高生』という段階で、何だかテアトル新宿のレイトでやってそうな、具体例を出して申し訳ないが、大沢樹生の「ピエタ」程度の三億円事件の取り入れ方ではないのかと。大体予告のナレーションの『私は三億円事件の犯人かもしれない』と言ってる段階で腹が立った。オマエのことやろ、と。かもしれないて何やねん、と。
 金券ショップで750円で購入できたので、兎に角観るかと思ってはいたが、一転して興味を持ったのは、この作品が60年代後半を舞台に、ちゃんと時代考証もやってると知ってからで、普段から予備知識を極力入れないのでそれを知ったのは公開前後のことだ。何せ特報のメット外し髪バッサ〜しか知らないので、現在を舞台に、それこそ三億円事件犯人が女子高生に乗り移ったみたいなハナシではないのかとすら思っていた。
 まず感心するのは、それほど予算の豊潤な作品ではないであろう本作で、時代劇を作るに等しい60年代後半の新宿を見事に再現してあることで、南口の階段付近のセットに主力を注ぎ、世界観を作り出すことに成功している。九州に残る町をアレンジすることで出来たという映画館周りにしても、この規模の作品にしてはよくできていた。開巻と終盤でCGを使用しているが、この規模の作品でのCGの不味さがやはり出ている際どい出来で、多用しない判断をしているのは絶対的に正しい。「Always 三丁目の夕日」レヴェルのCGでない限りは、ローバジェット作品で安易に使用することは作品の破壊に繋がる例を多数見て来たので、そういう意味でも安心した。
 欠点だらけだが、魅力のある作品だ。宮崎あおいが出ていれば、「好きだ、」みたいなゴミ映画でも映画のように見えてしまうが、これまでも数々の作品を沈没から救っている宮崎あおいが、今回も御馴染みなモノローグの合わせ技で映画を作り出している。
 出演者が良い。60年代のハナシをやるにしてもそれに相応しい面をした役者が10代20代で居るのかというとかなり難しい。その中で小嶺麗奈柄本佑、松浦祐也といった数少ない相応しい役者が揃っているので嬉しくなるが、その分彼等の描写が薄いのが残念でならない。しかし、彼等の存在が救いになっていて、宮崎あおいが“B”店内に最初に入ってきた時の第一声が『大人になんかなりたくない』なのには、観ていてドン引きしたが、以降生のままの科白が方々で露出しているのも、彼等によって随分救われている。
 柄本佑がアングラ芝居見ながら態々一気に説明科白で仲間を紹介したり、終盤に夫々のその後が紹介されたりはするものの、そこに思い入れを抱く程には、個々のエピソードが印象に残らない。小嶺麗奈と彼氏の関係も弱く、機動隊に殴られる柄本佑も暗い中での描写なので一瞬誰が殴られたかわからなかった。宮崎あおい小出恵介の関係、仲間たち、宮崎あおい宮崎将の兄妹関係の三本軸のバランスが、宮崎あおい小出恵介の恋愛関係が主に来るのは良いとしても、あとの二つにも重みが欲しかった。
 柄本佑が機動隊に殴られて重傷を負ったことから三億円強奪のハナシが持ち上がるので、単純だなあと思っていたら、終盤にタネ明かしがあり、これは巧いと思った。闘争としての三億円事件という視点が良かった。
 原作を読んでいないので分からないが、映画で観る限り『三億円事件犯人は女子高生』という1アイディアが先行していて、小説では成立しているのかも知れないが、映像で見てしまうと、どう考えたって女の声で『危険です。車を調べますので急いでおりてください』と言われれば気付くだろうと。体の線からして男じゃないし。時代背景のこともあるので、そう声関係に小細工できないとは思ったが、そのままやられると、ハナからフィクションとして寓話だと思って観てはいても興が冷める。宮崎あおいも利用されただけにしか見えず、『三億円事件犯人は女子高生』という突飛さ以上のものを感じなかった。
 と言いつつ、フレームが制限されている狭苦しさやロングにできない息苦しさを感じる箇所もありつつも、ひたむきな作りに好感は持てた。
 もう一度名画坐の2本立てでかかれば観に行きたいという種類の作品。
 因みに、本作でヤスを演じている松浦祐也がとても印象的で、初めて見た役者だが、パンフで経歴を見て仰け反る。現在25歳らしいが、曽根晴美の付き人として芝居を学びながら、テキ屋としてお好み焼きを売っているらしい。どう考えても平成の役者ではない経歴だ。ピラニア軍団の末裔が年を誤魔化して出演しているようにしか思えないが、しかし、この年代でこういう芝居の出来るヒトは少ないので貴重な存在になるだろう。とりあえず深作健太は仁科貴共々、松浦祐也をボコられ役で常時起用してはどうかと。