映画 「あんにょん・サヨナラ」「ブレイブ・ストーリー」

molmot2006-07-20

167)「あんにょん・サヨナラ」 (ポレポレ東中野) ☆☆★★★

2005年 日本・韓国 「あんにょん・サヨナラ」上映委員会 カラー スタンダード 107分
監督/キム・テイル

・左右を見回しても極端なヒトしか出てこない映画だった。
・音楽の付け方に違和感を覚える箇所が多かった。
・「レフト・アローン」や「ピンク・リボン」のCG同様、本作のアニメーションも効果的とは思えなかった。
 
 現在において靖国を描くには、こういう作りでは、例によって夫々が聞く耳を持たないまま平行線を辿る永久闘争的記録に終止してしまうのではないか。チャチなナショナリズムが横行している現在の日本で見せるには、これでは特定の理解者が観るだけに終わる。 
 自分は靖国だけではなく神社仏閣が嫌いなので一切行かない、又は行かざるを得ないハメに陥っても賽銭はあげない、参拝しないと唐突に12歳の時に決めたので、遠い世界の出来事のように見ていたが、それは登場する人々が自分の現実からは遠い人たちばかりだからなのか。或いは、この問題が解決する筈がないと思っているので、とっくに諦めているせいか。
 終盤にイ・ヒジャが、日本人が嫌いだったが支援してくれた日本人と親しくなることができたと語る際にインサートされる楽しそうに交流する映像が僅かにあったが、普段の生活者という世界共通の視点で描けば、反発を覚えたり、判断がつかない層も入りやすく接することができたのではないか。靖国で空疎にナショナリズムを高揚させている連中も、南京の虐殺資料館で謝り続ける古川も、自分にとっては遠い存在だ。  
 それにしても、今や世代交代が進み互いに直接戦争を知らない者同士が靖国前で争う醜さを、終盤の国威発動フルスロットルで女の子に殴りかかるオッサンらを見ていて思う。
 殴った方の息子達はいつまでもブツブツ言うなと言い、殴られた方は痛みを忘れず子孫に伝えていく。彼等、彼女等も家に帰れば市井の生活に埋没していく。その視点から見た靖国が観たかった。
              

168)「ブレイブ・ストーリー」〔BRAVE STORY〕 (Tジョイ大泉) ☆☆

2006年 日本 フジテレビジョン/GONZO/ワーナーエンターテインメントジャパン/電通/スカパー!WT カラー ビスタ 112分
監督/千明孝一    脚本/大河内一楼    声の出演/松たか子 大泉洋 常盤貴子 ウエンツ瑛士 今井美樹 樹木希林

 ちょっと驚くくらいの愚作だった。こんなものを夏休み映画としてフジが大々的にかけてしまって良いのか。亀Pがアニメにまで節操なく進出しても、そう上手くコントロールできるものとは思えなかったが、これは流石に不味い。商品以前のものだ。
 宮部みゆきの原作を読んでいないし、予備知識は例によって予告篇ぐらいしか知らないので、作品から直接受ける印象のみでしか言えないが、見せ場のみで形成しようとする映画なんて無理に決まっていて、伊丹十三の「マルタイの女」を観た時に呆気にとられた感じと同じ様な茫然とした気分にさせられた。
 劇場アニメは不味い雰囲気が漂う作品はパスすることにしているので、ここ数年何だかんだ言っても大当たり作品の印象が強い。「東京ゴッドファーザーズ」「マインド・ゲーム」「劇場版ワンピース オマツリ男爵と秘密の島」「ハウルの動く城」、不満は山ほどありながら「雲のむこう、約束の場所」だって本作に比べれば遥かにマシなものだった。
 本作だってゴンゾだし、そう外しはしないだろうと思っていた。作画は観ていて心地良い動きが多かったし安定しているように思ったが、ハナシが何じゃコレ、というくらい酷い。
 主人公の喜怒哀楽がわかりやす過ぎて、久々にこんなわかりやすいキャラ見たなと思っていたが、松たか子自体は作品によっては良いと思っているものの、声優としては魅力は薄く、声のトーンをもう少し下げて欲しいと全篇に渡って思いつつも、作画の動きで細かい芝居がされていたので、それを観ている分には良かったのだが、作品の中では、主人公がどういう人物かわかりかねた。
 幽霊ビルの肝試し、謎の少年、転校生、家庭の不和、母が倒れる、といった展開が開巻で怒涛の如く押し寄せてくるのだが、ファンタジーの世界を引き込むのに、こんなに大きな要素をゴロゴロ転がして、主人公に決断を迫らせてーその世界へ−、というには既に複雑で、短い尺でこれらが巧く伏線の要素として配置されていれば良いのだが、そうはなっていない為、作品の世界観に入りそびれたまま、ファンタジーの世界へ連れて行かれてしまう。その段階で危ないと思ったが、予想通り、最後まで作品の世界観には入ることができなかった。入り口は極力シンプルにした方が良かったと思うが。それこそ、親の離婚の回避か、倒れた母を回復させる為かで。
 この作品、移動の概念が乏しい。主人公が、ファンタジーの世界へ入る為に幽霊ビルへ向かう描写もすっ飛ばしているので、唐突にビル内の柱の影に隠れていたりするので、肝心の“決断”が弱いから行動に逐一疑問が生じる。
 以降、その世界へ入ってからは、RPGの要素が強いので、これも際どいなと思い、不安要素が積もったが、剣を授かって5つの宝玉を集めるのは結構だが、主人公の目的意識とそれを叶える為の手段と、ミツルの存在、更には主人公にはお供のキャラが幾人かついて回ってくるので、既に頭で躓いているので挽回できるのか不安だったが、より壊滅的な道を進む。
 3巻に及ぶ原作を詰め込んでいるらしいので、前述したように見せ場が串刺しになって続くのだが、その為に移動や各人物がAが何かをしている間、Bはどうしていたということが描かれないので、非常に都合よく集まったり散ったりしている。アイテム探しの旅なのに、ロードムービーとしての流れていく描写は歌バックで流しておけば良い程度にしか見せないから、その要素も薄くなる。
 久々に最後までつきあうのに骨が折れたが、終盤になると随所で“決断”が行われるが、その選択理由もそこに至るまでの描写に納得できなかった為、理解できず、かなりイラつかせられたが、とりあえず幸福な終わりを見せれば良い的な終わりで眉間に寄り続けていた皺がピークに達した時にエンドロールが流れた。
 ここまで低い出来なら「ゲド戦記」がどんなに悪い出来でも、かなり楽にブレイブを越えることができるのではないかと思うが、万一の不安は消えない。
 「好きだ、」とワースト1を争う出来。