雑誌 「映画芸術 416号」

59)「映画芸術 416号」 編集プロダクション映芸

映画芸術 2016年 08 月号 [雑誌]
 90年代中盤の映芸は追悼芸術と揶揄されることがあったが、映画人への手厚い弔いを果たしている唯一の雑誌だった。その後、編集部の趨勢もあるのだろうか、嘗てならもっと大きく取り上げていたヒトや、以前はこのヒトも取り上げていたのにスルーするのか?というようなこともあったが(野沢尚追悼はやるべきだったのではないか)、今号の『追悼 今村昌平 黒木和雄 佐々木守』は充実していた。佐々木守追悼に、佐藤慶×松田政男という、創造社とそれを取り巻いていた同時代証人のもはや数少ない生き残りの二人が語るのだから不足はない。
 黒木和雄には、当然ながら原田芳雄が(ここでの証言や年譜には映画史的に重要な証言も多い。「竜馬暗殺」の特報には山川れいかが映っているものの、予告篇・本編では中川梨絵と代わっていたのは何故かという以前からの疑問に、真意は兎も角“体調を壊して”という降板理由が語られる。又、「美しい夏キリシマ」で田村正毅と黒木が揉めたのは初耳)語る。自身が出演していない遺作をどう観たのかと思う。
 今村昌平については次号でも特集が組まれるようだが、今号では映画人によるベスト作選出。松江哲明監督の「『エロ事師たち』より人類学入門」への賛歌に我が意を得たり。終盤が破綻しているとか批判の声もあるが、この作品には勃起したまま制御が利かないもののコトは果たしている感があって、アングラ要素も含めて愛する作品なので、嬉しい。
 「太陽」についてのソクーロフ×足立正生の対話など、今号はかなりの充実ぶりだ。「太陽」黒木和雄佐々木守の対談に荒井晴彦が出てきているのも嬉しい。映芸はやはりこのヒトが矢面に立って対談に参加してくれないと盛り上がらない。
 ま、追悼で充実しているなんてのは喜ぶべきではない。むしろ「黒い雨」を荒井晴彦長谷川和彦が大批判していた時のような新作をめぐって充実しているのが望ましいのだが。